

量子コンピュータについて平易に語ろうとしたもの。『日経バイト』という科学雑誌に連載されていたものだそうだ。たしかに語り口は柔らかだが、量子コンピュータについてはあまり分かった感じがしない。むしろ、その周辺の話題についてはよく書けている。
量子コンピュータから話は始まる。だがしばらくは量子力学が生まれる歴史的過程について。磁気によるスペクトル線の分裂であるゼーマン効果(p.38-43)を出発点として、原子の内部構造の探求が書かれる。ハイゼンベルクの行列力学とシュレーディンガーの波動方程式が同じことを表現しているというところまで行く。また電子の自転、すなわちスピンを執拗に否定するパウリと推進するボーアの対立(p.97-103)の記述も面白い。
後半はいかに量子コンピュータを作るかについて、日本の事例(NECやNTT)を中心に書かれる。合間、トランジスタ開発の歴史だとか、超電導とジョセフソン効果などが書かれている。人工的な量子ビットの先駆的な例としては、NECの渡辺のスーパーアトムが挙げられる(p.157-161)ほか、ジョセフソン効果を用いた試みがいくつか扱われている。最後には量子テレポーテーションを用いた思考実験、量子暗号について書かれている。
歴史的な話はそれなりに面白いが、肝心の量子コンピュータそのものの内容は分かりやすいとは言えない。
スポンサーサイト
- https://exphenomenologist.blog.fc2.com/tb.php/968-e0759274
トラックバック
コメントの投稿