

良書。エントロピーを巡って、熱力学と統計力学の両方の観点から解説している。単なる読み物ではなくて、数式はたくさん出てくる。ボルツマンの原理S=kblogWの導出に向けて、必要最低限の概念を説明している感じ。それゆえとてもすっきりした話になっている。
熱力学のパートは類書と変わらない印象。エントロピーはカルノーサイクルにおいて保存される量として熱と温度から定義される(p.106f)。やはり熱力学の範囲では、定義してみた以上のイメージを持てなかった。だが統計力学のパートはかなり面白いし、しっかり書いてある。エネルギーの存在確率の分布であるマクスウェル・ボルツマン分布の導入は素晴らしい。この分布に従わない粒子として、フェルミ・ディラック統計に従うフェルミオン、ボース・アインシュタイン統計に従うボゾンにも言及される(p.183-193)。
最後の章では熱力学のパートで定義したエントロピーと、統計力学のパートで定義したエネルギーをつなげて、ボルツマンの原理を導出。導出過程の式変形は、相当丁寧に書かれている。よく分からない式変形は一行もなかった。エントロピーは乱雑さとか直感的に言われるが、これが粒子が取りうるエネルギーの場合の数に関係していることがよく分かる。そして、粒子の数が多ければ、この取りうるエネルギーの場合の数は存在確率の高い分布(安定な分布)に近づいていくことが中心極限定理だとされる(p.204-208)。
やはり統計力学から考えないと分からないものなのだと思いを新たにする。熱力学は抽象的すぎる。理論的な本を読み始めるか。
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熱力学も統計力学もまったく理解していませんが、やさしめの本をいくつか読んだ印象として、熱力学は抽象的だな(あるいは、ハイレベルだ)と思った次第でした。
ご指摘の通り、もちろん熱力学的記述のほうが日常経験に近いはずなので、そういう意味では具体的であるはずですね。
物事を具体的に提示されるとよく理解できず、数学的モデルや公理系で抽象的に提示されると理解しやすいというアタマの構造になっているもので。抽象的なもののほうが具体的なのです。
田崎さんの『熱力学』(新物理学シリーズ)は『統計力学<1>』『統計力学<2>』と合わせて、今後読む本リストに入っています。あの本なら分かりそうだ、となんとなく思ったもので。手を付けるのはいつになるやら、ではありますが。