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グロービス経営大学院『改訂3版 グロービスMBAマーケティング』


MBAコースのマーケティング教科書。とてもよくまとまっている。マーケティング戦略の策定からPEST, SWOT分析。STPの手順。その後、4Pマーケティングミックス。次いで応用編として、ブランド戦略、リサーチ、競争戦略、CRM、生産財マーケティング、グローバルマーケティングとある。

市場の機会はあるものではなく、発見した事実を基に作り出すもの(p.23, 34f)というメッセージ。マーケティングは企業と市場との対話方法だが、機会を積極的に作り出していく考えが大切と説く。SWOT分析にもそうした考えは見られる。単純にSWOT分析だけで終わるのではなく、市場の脅威も視点を変えれば機会と捉えることができる。自社の強みと弱みでも同じ。こうした視点の転換ができた企業こそ、強みを獲得できる(p.32-34)。

正直なところ、前に読んだ安原本のほうがまとまりがよく読みやすい。本書で学んだ点は、まずターゲット選択基準。ターゲティングで選ぶセグメントとして、6Rと自社の経営資源、環境要因が挙げられている。6Rとは有効な市場規模(Realistic Scale)、成長性(Rate of Growth)、競合状況(Rival)、顧客の競争順位/波及効果(Rank/Ripple Effect)、到達可能性(Reach)、反応の測定可能性(Response)。あまり語呂はよくないが、役に立ちそう(p.45f)。
また、流通チャネルについて、企業外部の要因が多く関わってくるので難しい領域だとの捉え方。それはマーケティングミックスの中で最も変更が難しく、しかも構築には時間がかかるものとされる(p.112f)。だからなかなか真似されない。
さらに、購買行動に至る消費者の状態を表したものとしてAIDMAモデル(欧米ではAIDAのほうが多いとのこと)があるが、これは企業からは途中過程が見えない。したがって計量可能なAMTULモデルが紹介されている。認知(Awareness)、記憶(Memory)、試用(Trial)、本格的使用(Usage)、ブランド固定(Loyalty)で、それぞれを測る指標がある(p.119f)。

後は、CRMがなぜ重要になってきたかの文脈。その背景には市場の成熟化と顧客嗜好の多様化、さらにサービス部分の比重の高まりがある。後者がちょっと考えておくべきことで、サービス部分が多くなれば、企業と顧客の接点が増え、関係維持が重要になる。製品からソリューションへという流れとCRMが関係してくるだろう(p.119f, 206f)。

グローバルマーケティングの難しさ。まずはそれぞれの国や地域の現地の地域レベルのマーケティング能力を向上させるのが優先課題。マーケティング活動のグローバル統合はその次のステージ(p.230f, 241f)。現地のマーケティング能力が弱ければ、グローバルなマーケティング戦略を展開できない。ただ、逆に現地が強すぎれば、グローバルにはコントロールしにくいという側面もある。

気になったところは、新製品開発プロセスが製品戦略のなかに入っていること。文字通りにはいいのだろうが、ここで扱われているのはマーケティング全体に及んでいる。これはもっと前の章にあるべき話だろう。また、新製品開発プロセスが全体を通じて前提とされていて、既存商品の拡販については視点が薄いように感じる。
さらには、カスタマーバリューが製造コストを常に上回るという想定(p.84-87, 90f)も気になった。実際にはカスタマーバリューは製造コストよりも低いことはままある。その場合には、どの企業も製造コストより高い価格しか設定していなければ、消費者は仕方ないのでその値段で買うまでだ。そしてもしもっと低い価格を提示できる企業があれば、そちらへ流れる。その現象は、もともとのカスタマーバリューが製造コストよりも低いところにあったと分析される事例であって、カスタマーバリューが下がったという事例ではないだろう。
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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