

題名と内容はちょっと異なる。題名からは空港を日常的に運営する裏話のようなものを期待する。私もその想定で本を紐解いた。しかし内容はそうではない。この本は、2015年12月に締結された、伊丹空港・関西国際空港を統合した新関空会社のコンセッション(運営権)売却スキームを解説したものだ。日常的に空港がどのように運営されているのかについての話はない。
著者は、伊丹空港・関西国際空港が(神戸空港を置き去りにして)新関空会社へと統合され、そしてオリックスとヴァンシ・エアポートコンソーシアムが設立した関西エアポート株式会社に移管されるプロセスの中心的な運営を担っていた。現場の立場から、会社統合やコンセッション売却の仕組みがどのような考えのもと作られたのか、どのように交渉が進んでいったのかが書かれている。公共施設の大規模なコンセッション売却は日本ではまだ関空くらいしか例がない。プロセスの実務者が内部から書いた本として、今後大いに参考になるだろう。
最初には関空にも通じる、日本の空港が抱える一般的な問題が書かれている。空港事業の多くは関所のように、単にそこにありそこを通る人から売上を得るだけになってしまっている。つまり、まともに空港を経営する人がいない。さらには、開港前の需要予測の甘さと、頻繁な人事異動による意思決定の分断も大きな問題である(p.43-47)。これらの問題の根源は、やはり実質的に国が運営する法人だというところにある。公益法人は見かけだけ民間企業であって、普通の企業にある組織ガバナンスが欠如してしまう。株主たる国には投資家としてのセンスは無い。関空の問題の根源もここにあった(p.67)。
本書には公共事業の抱える問題点が多く述べられている。これらのポイントは、公共団体と仕事をする際に役に立つだろう。空港運営会社に特有の話ではないからだ。新たな施策を打ち出すにしても、過去の失敗を明示できなかったり(p.116)。また、政策の実施段階になると国はそれまで企画段階で携わっていた優秀な人材を抜いてしまう。しかし実施段階こそ抵抗勢力が強まるため、結果として政策効果をもたらすことができない(p.128-130)。コンセッションの売却を困難にしたのもこうした点だ。すなわち、公共と民間で意思決定の仕組みが組織文化的に違う。公共は基本的に守りであり、リスクを現場レベルで査定し排除した形で意思決定がなされる。それはボトムアップの仕掛けだ。民間では全方位的に事業を行う必要はないのだから、トップの意思で決めるトップダウンの仕掛けを持っている。すると公共からは、民間会社は現場レベルで話が決まらないと見えるし、民間からは公共は誰に決定権があるのか分からない(本当に現場で決められると信じられない)ということになる(p.212-216)。これは面白い。
新関空会社のコンセッションの話は、もちろん本書のメインテーマである。だがこの箇所は、会計効果や税制などファイナンスの基礎知識がないとかなり理解するのが困難だ。紙面の余裕もあるだろうが、基本的な単語はほとんど解説されず進む。民間会社として考えれば明らかに債務超過である状況で、いかに経営の自由を確保しつつも債務返済を確実にするかという観点から、まさに針の穴に糸を通すような繊細なプラニングがなされたことが述べられている(p.207-209)。もちろん当事者の一方からの話なので、その話がどこまで妥当なのかは評価しづらい。
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