イタリア語の雰囲気をつかむ本。基本的なところは押さえられているし、やや文法に重きを置いて記述になっていて堅さを感じるが読みやすい。発音から始まって、名詞の性・数と冠詞の変化、動詞の人称変化と再帰動詞、近過去形と半過去形の使い分け(と一応、遠過去形)、助動詞と疑問詞、イタリア語の方言と地域性、イタリア語における外来語という内容。気づいたところでは形容詞の比較級・最上級や、接続詞についてはほとんど触れられていない。また前置詞も弱いし、接続法についてほとんど何も書いていない。文法で拒否感を持つ人にはあまり勧められないが、文法的構造を含めてイタリア語を知りたい人には勧められる。
著者いわく、イタリア語は話しやすい言葉だという。発音や文法は簡単だし、それ以上にイタリア人は外国人がイタリア語を話していると何とか理解しようとするからだという。これは日本人はもとより、フランス人やアメリカ人にも見られない傾向だという(p.16ff)。少なくとも発音や文法の単純さは納得できる。フランス語のような発音の難しさは少ない。文法については法と時制からすると多くのパターンがあるように見えるが、概念は単純だし何より存在するだけで使われないものが多い。フランス語やラテン語を学んでいればかなり学びやすい。
なるほどと思ったのはイタリア語というものが、トスカーナ地方の言葉を基にした標準語の概念だということ(p.133-165)。発音についても辞書的なものは一応、イタリア中部トスカーナ地方のものが基になっている。つまり首都ローマの言葉ではないようだ。イタリア人は自分の出身地に対する自負心が強く、その地域性を容易に変えることがないそうで(p.161)、大阪弁の人が関東に来ても変わらないようなものか。しかし、イタリア語で言う「方言dialetto」とはイタリアの地方で話される<イタリア語でないもの>の意味だそうだ。イタリアの方言はイタリア語と見なされていない。この点は通常言われる方言とは異なる。つまり、イタリアにずっと住んでいてイタリア語を話せないイタリア人がいるということだ。するとそもそもイタリア人とは何なのか。考えさせられる話だ。
スポンサーサイト
- https://exphenomenologist.blog.fc2.com/tb.php/690-f27eec4c
トラックバック
コメントの投稿