fc2ブログ

Entries

室岡健志『行動経済学』

行動経済学の本格的な入門書。伝統的な経済学からは不合理に見えるような実験結果を提示し、こうした実験結果を説明しうる行動経済学的なモデルを導入する。最新の研究成果への広がりや、著者自身の研究内容、政策への提言なども含み、話題の広がりが見られる。モデリングは初等的な例を扱いながらも、式展開まで丁寧に追っており理解を助ける。


本書で言う行動経済学は、行動経済学的なバイアスや選好を組み入れて、伝統的な経済理論の理論モデルを拡張するもの。近視眼性、参照点依存、社会的選好、主観確率、限定合理的な戦略思考などが対象となる(p.3-5)。本書で扱う行動経済学とは、かつて情報の経済学がそうしたように、伝統的な経済理論を拡張することにより経済学に新たな知見と含意をもたらすもの。 情報の経済学は 、「情報の非対称性」という要素がどのように経済活動へ頑健かつ予測可能な形で影響するかを分析した。それと類比的に、行動経済学は 「人の心理」という要素がどのように経済活動へ影響するかを分析する(p.7)。


ただし、行動経済学はゲーム理論や情報の経済学のようには広大な適用範囲を持っていない。ただし、セルフコントロール問題に対する分析は例外。近視眼性に焦点を当てた分析を可能にする準双曲割引モデルは、人々が日常的に直面する異時点間の選択一般という広大な応用範囲を開くかもしれない(p.27)。


近視眼性を入れたセルフコントロールの問題や、近視眼性に対するナイーブさを入れたモデル、異時点間への投影バイアスなど第一部はすんなり入る。将来の自分の近視眼性βを現時点で予測できていない個人(ナイーブな個人)を導入することで、合理的には実行すべき行動を取らないと予測して実際に取らない遅延(delay)と、行動を取ると予測しつつ実際には取らない先延ばし(procrastination)が区別される(p.39-45)。


期待効用理論では説明が難しい現象として、アレーとゼックハウザーのパラドクスが挙げられ、ここからプロスペクト理論へと説明が展開される(p.82-89)。そして参照点に効用が依存するKRモデルを説明する。この第二部は行動経済学で最も有名なあたりだろうが、読むのはやや難しい。第三部と第四部はゲーム理論の話題で展開される。独裁者ゲームに対する実験を解釈するいくつかのモデルが展開される。社会的選好として自分と相手の利得の差に対する効用を入れた分析は、独裁者ゲームと囚人のジレンマを扱う。囚人のジレンマでは、双方協力することが新たなナッシュ均衡になる(p.165-168)。第四部は限定合理性を取り上げ、レベルkモデルや、個人の不注意をモデルに組み込む。不注意な消費者がいる場合の、売り手企業のベルトラン型競争の均衡などが分析される。


行動経済学は軽い読み物も多いが、こうした本を読むとだいぶしっかりと理論化されていることが分かる。

スポンサーサイト



この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
https://exphenomenologist.blog.fc2.com/tb.php/1476-313b9915

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

別館:note

検索フォーム

QRコード

QRコード