読んだ本をひたすら列挙。読書のペース配分とその後の読み直しのためのメモ。学而不思則罔、思而不学則殆。
近年の実証的な経営学の成果を踏まえた読み物。著者は組織行動を中心とする研究者ながら、実際に企業の現場で経営学を活かした問題解決も手掛けているとのこと。組織における上下関係や働き方、コミュニケーション、PDACAなど施策の回し方といった話題について、最近の経営学から言えることを平易に書いている。ただし、話題はかなり多岐にわたっているし、章ごとのまとまりもあまり見られず、全体的なメッセージは見えにくい。
目の前の物事に集中していないこと、つまり注意散漫は実は創造性を発揮し、アイデアを生む。創造性が働くには、(1)目の前のタスクとは直接関係なくとも、仕事の課題と何らか繋がっていることを意識している。(2)雑念に惑わされない、仕事にコミットしたプロ意識の2つが必要。また仕事の先延ばしが一切許されない状況では、効率性だけがフォーカスされる。そのため、中程度の先延ばしが可能であることが創造性の発揮には必要(p.16-22)。
企業組織の行動においてネガティブなシグナルを活用できない理由は、心理的バイアスの存在による。このバイアスは有能な人でも回避できるものではない。ネガティブなシグナルが無視される状況は、3段階に分けて考えられる。(1)現時点では明確な問題は発生していないが、将来についての警鐘が鳴らされている状況。この警鐘が無視されるのは、悪くない現状と警鐘を無視してもよいという権力という2条件が存在するとき。現状を否定したくないという自然な欲求に、権力がお墨付きを与えてしまう。(2)問題が明らかになってきた第2段階では、確実な損失を被るよりも、たとえ期待値が低くても損失を回避できる可能性にかけるバイアスが生じる。これは 行動経済学で有名なプロスペクト理論で説明できる。問題の切迫性に焦り、対処可能かどうかの判断が甘くなる。(3)問題が手に負えなくなった第3段階では、将来、法的に罰せられる可能性のある手段を取るなど、問題を解決するためには何でもやるという思考に陥りやすくなる(p.119-129)。
専門家の意見が組織において活かされない3つのパターンとその対策。(1)方針決定では重宝されるが、実行段階では軽視される。この場合、決定された方針に従って専門家は小さな行動を起こすべき。それにより、企業内の人々が言ってることと行っていることが違うことを明らかにする。(2)専門家の意見は現実の複雑性を反映していない空論とみなされる。この場合、専門家は現場経験や現場の人々とのつながりをアピールし、迅速に行動するなとして意思決定者との信頼関係を短期間に築くべき。(3)自分の専門性とその正しさを強調し、意思決定者の反発を招いてしまう。このような場合、専門家は自分の専門性が発揮されないような雑務を行い、謙虚に現場に学ぼうとする姿勢を示すべき(p.131-140)。
上司と部下のコミュニケーションには、部下が何を話して何を話さないほうがいいかを部下に判断させる、暗黙の決まり(スクリプト)が存在する。この暗黙の決まりを打破できないコミュニケーションはうまく行ったように見えても、部下が上司を気遣ったコミュニケーションにすぎない。暗黙の決まりを書き換えるには、上司の破壊的自己開示、つまり部下の知らない自分の側面についてのオープンな語りが必要。この自己開示には仕事外の事柄の自己開示、例えばイメージと異なる趣味の開示や、仕事に関する自己開示、例えば上司としての限界を認めることがある。より有効なのは後者(p.179-185)。
企業のビジョンはそれか実現したときのイメージで語るべき。イメージではなくうまい言い回しを考えようとする「曖昧ビジョンバイアス」を回避し、ビジョンが実現した未来を想像するメンタルタイムトラベルによって「近視眼的ビジョンバイアス」を回避する(p.65-73)。
言いがかりのようなネガティブコメントに対して、顧客が機能や利便性を重視する会社(アマゾンなど)の場合は、会社が責任を認めて謝罪するほうが好感(フェイスブックのいいね)を集める。それに対し、顧客がブランドイメージをより重視する会社(レッドブルなど)の場合は、責任を認めないほうが好感を集める。ネガティブコメントへの対処は、自社が顧客にどのように見えているのかを踏まえて行うべきだ(p.29f)。スタッフが本物の感情から笑顔や挨拶を行っていない場合、ファン作りには繋がらない。ファンを作るには、スタッフは顧客のニーズを深掘りするのではなくて、顧客を一人の人として、 顧客の生活や人生に寄り添うこと。スタッフが自分自身のアイデンティティの一部に顧客を取り込むことが必要(p.105-109)。
機械学習(AI)のアルゴリズムは、その意思決定の背後にあるプロセスや理由がブラックボックスであるというオペーク(不透明)問題がある。機械学習アルゴリズムとともに働く上で求められるのは、その判断を盲信することでも拒絶することでもなく、その判断にどのような意味があるのかを学ぼうとする姿勢、知的謙虚さである(p.50-55)。機械学習モデルの予測結果がブラックボックスだというのは、社会一般からよく言われるが、個人的には疑問。その推論過程はきちんと追うことができ、メカニズム的にはホワイトボックスrだ。社会一般的には、例えば車のエンジンがなぜ安全に動くか、インターネットがどう動くかなどもブラックボックスだが、ここに問題は感じられていない。技術そのものの透明性や説明可能性ではなく、社会がどう受け入れているか、もっと繊細な議論が必要。
全般的に話題が各所に及んでいて、統一感が薄い一冊。もっとテーマを絞り、自然実験の内容を紹介するなど掘り下げたり、相反する関連研究から多面的に描くなどした方が個人的には印象に残る。
Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。
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