fc2ブログ

Entries

SSIR Japan編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04』

コレクティブ・インパクトの現在について。ソーシャルイノベーションが大きく話題になってきたのは、コレクティブ・インパクトという考え方の登場が寄与してる。本号は、当初話題になったコレクティブ・インパクトのその後を振り返り、最近の展開やより強調すべき点を論じる。関連して、コレクティブ・インパクトを目指す各所の活動についていくつもの記事が載っている。


現在の視点から振り返ると、コレクティブ・インパクトの取り組みを成功させる最大の要因は、エクイティの問題に対処することにある(p.12f)。ここでエクイティとは、機会や格差の構造的な不平等を解消することである。エクイティに対処することとは、周縁化と抑圧をもたらしてきた構造的な阻害要因を認識し、周縁化された人々のニーズに応えようとすることだ。


エクイティを中心に据えてコレクティブ・インパクトを達成するためには、5つの戦略があるとされる(p.15-24)。(1)データと文脈に基づき、取り組みの的を絞る。細分化されたデータで、人々が周縁化されている状況を示す。すべての参加者にデータを分かりやすく可視化して共有し、文脈を共有する。(2)プログラムとサービスに加えて、システム・チェンジに重点を置く。資金の流れだけでなく、個人間・組織間の権力関係、そして人々のメンタルモデル・世界観を変えようとする。システムの変化度合いを測定できるようにする。(3)連携・協働における力関係を意図的に変える。資金の流れや意思決定を行う権力のある人を巻き込む、あるいはリーダーを養い決定権を取り戻す。(4)コミュニティの声を聞き、コミュニティとともに行動する。コミュニティのためにではなく、コミュニティとともに活動する。コミュニティを問題解決の対象としてではなく、資産としてみる。(5)エクイティ実現のためのリーダーシップとアカウンタビリティを築く。組織とそのリーダーにエクイティへの取り組みに対するアカウンタビリティを課す。


(周縁化されている)コミュニティは救済の対象としてではなく、ともに問題解決に資する資産として捉えること。そのためには、コミュニティが主体的になるように活動に巻き込むこと(p.37-39)。この巻き込みには、様々なレベルが含まれる。スチュアート・ブランドが社会の発展速度の異なるエコシステムを区別したベース・レイヤー・モデルが述べられている。文化、政治、インフラといった取り組みのベースの遅い層だけでなく、流行や商業といったペースの速い層も重要である。


コレクティブ・インパクトによって社会的インパクトを生み出すには、組織間のネットワークが必要だ(p.45-49)。というか、それがコレクティブの謂いである。しかし組織間のネットワークは、様々な存亡の危機に直面する。そのとき、ネットワークのレジリエンスを支えるのは、変化の方法論(Theory of Change)であると言う。この変化の方法論には、5つのモデルがある。(1)プロジェクトモデル。新たな製品やサービスをプロジェクトとして生み出すためにネットワークが形成され、プロジェクトが完了すれば解散、あるいは縮小する。(2)触媒モデル。高い効果が見込まれる特定の解決策の規模拡大のために形成されるネットワーク。(3)政策モデル。法律や規制を変えるために共同キャンペーンを張るためにネットワークが形成される。(4)学習モデル。それぞれの組織の既存サービスの質を向上させるためにネットワークが形成される。(5)システム連携モデル。既存サービスの届かない空白地帯に対して、参加団体でネットワークが形成され、共同事業がコーディネートされる。


元々のコレクティブ・インパクトの論文でも扱われていたように、関心も文化も違う組織(企業、行政、CSOなど)を一つの社会課題の解決に向かわせるに有効な条件がある(p.59, 64-71)。(1)共通のアジェンダ。活動対象となる課題の範囲を設定し、活動指針となる枠組み、課題解決に至る筋道・アプローチ(アクションフレームワーク)を構築する。(2)共通の測定システム。共通の測定基準に各ステークホルダーが合意するのはきわめて困難だが、コラボレーションには必須である。(3)相互に補強し合う取り組み。様々なワーキンググループや、多層的なコラボレーション構造の運営。(4)継続的なコミュニケーション。(5)活動をサポートするバックボーン組織。取り組み全体を支える特殊なスキルセットを持つ、独立した組織とスタッフ。取り組みを牽引するリーダーシップと、十分な資金力が必要。


そうした組織間活動の運営には、ちょっとした細かなポイントが鍵となったりもする。NPOへの寄附者は、寄付したものを自分がコントロールしたいがために、金銭より時間(役務)の提供を好む傾向にある。そこで、お金を出すか時間を出すかというgiveではなく、お金を使うか時間を使うかというspendと言いかえることで、自分と自分のリソースを切り離して考えられるようになってNPOとの関りが改善する例もある(p.152f)。


スポンサーサイト



この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
https://exphenomenologist.blog.fc2.com/tb.php/1466-09ac7c8f

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

別館:note

検索フォーム

QRコード

QRコード