業務変革を行うプロジェクトの立ち上げフェーズに焦点を当てた一冊。業務変革プロジェクトを推進することで定評のあるコンサルティングファームが書いている。クライアントの実名も出てくる現場感ある生々しい話が多く含まれる。全体的に熱気が伝わってくるような一冊。教科書と大事しているが、教科書っぽい無味乾燥感は少ない。
立ち上げ期にフォーカスするのは、変革に失敗するプロジェクトの9割は、立ち上げ期にやるべきことをやっていないからだ。変革プロジェクトの成否を決めるのは立ち上げ期である(p.2f)。変革プロジェクトの立ち上げに必要なのは、目的(purpose)、目的達成の道筋(process)、必要な道具(property)、参加者(people)という4Pが明確になっていることだという。この4Pを明確にするには、ゴールやコンセプトを固め(2~4週間)、現状を調査・分析し(1~3か月)、取り組むべき施策を立案して具体的なアクションとして検討し(1~3か月)、費用対効果やリスクを分析して意思決定を行う(p.7-13)。本書はこの四つのフェーズ、すなわち目標設定、現状調査、施策立案、意思決定に分けて、おおよそ時系列に沿って実践的なポイントを記している。
まず、よいゴールに必要な条件が挙げられる。何よりもプロジェクトで使えるものであること。分かりやすく、全員で共有できるものであること。フェーズに分けるなどして、やらないこと、後回しにすることが表現されていること(p.29-33)。こうしたよいゴールを見出すには、(1)社内の意識の高い人や有識者からヒントをもらったり、他に関心を持つ人を紹介してもらう。(2)当たり前すぎて普段は議論しないような「そもそも」に立ち戻る。(3)考えたことは整理できていなくても、とりあえず紙に書き出してみる。(4)合宿をする。あえて(パワーポイントとかプロジェクターとかの)設備の整っていない温泉とか。(5)表現の仕方を言葉にこだわらず、絵なども活用する、といた手段が挙げられる(p.42-49)。ゴールと並んで、ゴール達成の基本的な枠組み、アプローチとなるコンセプトを決める。
この段階で、プロジェクト立ち上げにかかわる人集めも行う。変革プロジェクトの立ち上げに集めるべき人とは、(1)混沌とした状況でも仕事を続けられる、自立している人。(2)客観的に冷静な判断をしつつ、決まれば主体的に取り組む人。(3)業務の細部や過去の経緯に詳しい人。(4)あまり知識はなくとも前向きであり、会社として伸ばしたい人。(5)フットワークが軽く、チーム内外のコミュニケーションを円滑にする人(p.22-27)。実際には、適する人が集められない場合は多々ある。プロジェクトに適切なメンバーがいないときは、複数の役割を兼任させるよりも、やりながら育てる方が良いとしている。違う役割の人がそれぞれの立場から議論することでプロジェクトは良くなっていく(p.72)。やりながら育てる覚悟をするのは興味深い。
次いで現状調査。現状調査は非常に手間がかかるが、惜しんではならない。効率的に現状調査を行うための4つのフォーマットが紹介される(p.75-83)。(1)一覧表。申請一覧、帳票一覧、イレギュラー業務一覧など。(2)アクティビティ一覧。あまり分岐の発生しない、流れで行われる業務を網羅的に書き出す。(3)業務フロー。分岐が多く、担当が複数に分かれる業務をスイムレーンチャートで記述する。(4)システム機能マトリクス。システムの機能をグループごとに記載する。
現状調査の結果に基づいて分析が行われる。現状調査から課題を特定するステップ。現状調査で明らかになった困りごとをまずは具体的に一覧にする。それら困りごとをまとめ、困りごと(問題)を生み出している原因を課題として特定する。発生頻度、発生原因、解決できていない理由の三つの観点から課題をさらに調べる。業務フローなどの全体図に課題の発生個所を書き込む(101-107)。
課題が特定されれば、課題を解決するための施策立案へ進む。改善施策の立て方が4つ(p.135-144)。(1)現状調査から出てきた課題に対して解決策を一つずつ考える。何を変えるか(改革のテコ)と解決方法の組み合わせで施策は作られる。削減、統合、順序変更、簡略化の順に効果が大きいので、この順で検討する(ECRSの原理)。(2)理想像から考える。制約を取り払って考える、他社事例を参考にする、他業界(製造業と小売業など)や他部署(経理と販売管理などの考え方を参考にする。(3)普段から考える習慣をつける。(4)ゲーム感覚で施策出しを行う。
それでも施策出しに困ったときは、典型的な施策6選が参考になる(p.148-159)。(1)業務ルールや基準の標準化。(2)一元管理。グループ会社事の業務を本社で一括管理するなど。(3)業務集約。シェアードサービスセンターを作る。(4)アウトソーシング。定型的で場所を選ばない業務に変える、見つける。(5)承認プロセスの見直し。システムによるチェックや、形式チェックと承認する人を分ける。(6)納期短縮による競争優位の確保。自動化、並行化、権限委譲、セルフサービス化により業務にかかる時間を短縮する。
施策立案のところで、抵抗勢力への対処の仕方が扱われている。これはここに入っているが、プロジェクト立ち上げ期のどこでも出会うし、プロジェクト実行時にも多く出会う話だろう。実践的なエピソードも交え、具体的で示唆に富んでいる。会議においてなんとなく前向きでないといった初期段階で対処していくことが重要。その人に個別に、懸念内容の詳細化、言語化や、感情面への配慮を細かく行っていく(p.178-189)。ポイントは記されているが、抵抗勢力への対処はとても難しい。もっと話を聞きたいところ。
最後の意思決定では、スケジューリングや費用対効果分析について。経営会議の通し方としてはもうちょっと何か欲しいところ。例えば全社的な施策、会社のMVVや経営計画との整合性を盛り込むこととか、プロジェクト目線を離れて経営目線を取り込むことの必要性とか。またリスクを発生確率と影響度で評価するのはいいが、対策の解説は少し弱い(p.219-222)。ここはPMBOKにならって、リスクの回避、転嫁、軽減、受容で説明したりするとよさそう。
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