fc2ブログ

Entries

高原勇・粟野盛光『次世代モビリティの経済学』

モビリティ市場を題に取ったミクロ経済学の解説。ユーザに走行時の様々なデータを提供させるための(正および負の)インセンティブをどう与えたらいいかという問題(モニタリング選択問題と呼ばれている)をゲーム理論で考えるものと、シェアリング市場のマッチング理論が扱われている。かなり単純化された設定での基礎的なモデル化が行われている。実践とはかなり距離がありそうと感じる。基礎的なモデルと実践をつなぐ何かの議論があるとよいという印象。経済学のモデルを論じる前後には、モビリティの現状や未来についての概論がある。そちらは基本的に抽象的な枠組みの話で、どことなく読みにくい。


マーケットデザインによる市場が成立するには、3つの要件があるとされる(p.69-73)(。(1)十分な市場参加者による、市場の厚みの存在。サービスの標準化や、経路検索・予約・決済の一元化による取引費用の削減が鍵。(2)需要量が供給量を超過する混雑を、取引の成立によって解消すること。混雑に応じた価格設定や、混雑情報の提供。(3)プレイヤーが市場に参加するための安心・安全の確保。ドライバーの安全運転を促進するインセンティブ、決済のセキュリティ。


最初に扱われるのはモニタリング選択問題と呼ばれ、運転手(ユーザ)がより多くの走行情報を提供する技術を選ぶようなインセンティブの報酬体系を設計する問題(p.82f)。走行情報の中で特に運転速度を行政機関に提供すると、実際に走りたい実勢速度$a_h$が規制速度$a_l$を超えてる場合には、スピード違反として罰則$t_h$を受けることになる。ゆえにユーザとしては、実勢速度での効用が罰則込みでも規制速度を超えていれば($v_h - t_h \geq v_l$)、実勢速度で走ることになる。もし運転速度が、現在のように(オービスなどで)確率$q$でしか観察されないなら、罰則の期待値$q t_h$との比較になる。これらをゲームの木を書いて展開型表現で分析している。実勢速度での効用と規制速度での効用の差$\Delta v$が閉区間上に一様分布している仮定で、最適な罰則$t_h$(と速度の観測に協力したことに対する報酬$t_l$)を行政機関としてどう設定すればいいかを分析している。分かりやすく筋の通ったモデルになっている。


もう一つのマッチングについては、経済主体が二手に分かれてそれぞれの選好を持つ二部マッチング市場と、片方は財であって選好を持たない配分マッチング市場の二つを分析している(p.133-140)。ライドシェアと個人間のモビリティシェアは二部マッチング市場、一企業のモビリティシェアは配分マッチング市場として定式化できる。流れとしては、耐戦略性や安定性を定義して、うまくいかないマッチングのアルゴリズムを示し、ゲール・シャプレイの受入留保アルゴリズムへ論を進める、よくある展開。


ただなかでも、時間の流れの中で経済主体が次々と入れ替わる状況でマッチングを決める動学アルゴリズムに触れていて面白い。動学メカニズムとしては、各時点で市場が形成されたらその都度マッチングを行う連続時間メカニズムと、一定の時間間隔ごとにマッチングを行う一括(batch)メカニズムが論じられる。一括メカニズムのほうが参加する経済主体が増えるのでよいマッチングになるかと思いきや、そうではないところが興味深い(p.152-155)。


配分マッチングは、市場への先着順に財とのマッチングを行うメカニズム(早い者勝ち)と、一括メカニズムでマッチングの順序を等確率で選ぶ確率的優先順序一括メカニズムを解説する。先着順のマッチングは公平でないことを論じる。これらだとあまりに初歩的なので、Probalistic Serialマッチングを紹介すればと思った。PSマッチングは注で触れられるのみにとどまっている。耐戦略的ではないことが触れない理由なのだろうか(p.172-180)。

スポンサーサイト



この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
https://exphenomenologist.blog.fc2.com/tb.php/1461-4aef658c

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

別館:note

検索フォーム

QRコード

QRコード