読んだ本をひたすら列挙。読書のペース配分とその後の読み直しのためのメモ。学而不思則罔、思而不学則殆。
ウェブサイトやアプリなどのインターフェースのデザインに、人の認知の癖を活かそうという発想で書かれている。認知心理学の様々なトピックから100を列挙し、それぞれ数ページで簡潔に紹介。デザインに活かせそうなポイントを記している。構成上、トピックが短く次々と提示されるので物足りなくもあるし、テンポがよく読みやすくもある。
視覚について。人は周辺視野を使って場面全体の概要を捉える。そのため、サイトの全体を表す情報を周辺に置くのがよい(p.5f)。この周辺視野は、視線追跡によってはデータ化されない。視線追跡データは中心視野しか捉えていない。また視線追跡によって被験者が何を見たかは分かるが、その物に注意を払って認識したとは言い切れない(p.19f)。コーヒーカップなどの物体や動物などを、人は標準的には斜め上からの視点から思い浮かべる。コーヒーカップを書くのに、真上からの見た目を書く人はいない。この標準的な視点から見たものは、素早く認識でき、記憶もされやすい(p.11f)。
理解の速度について。英語の文章の場合、一行あたり100文字が画面上で読む速さの点では最適である。しかし一般には一行あたり45〜72文字という、より短いか中程度の長さの方が好まれる。長い行のほうが早く読めるのは、サッケードと固視による目の動きが関係している。行末でサッケードは中断されるため、先読みが行われない(p.43f)。ワーキングメモリーに一度に覚えておける情報の数(魔法の数)は7±2というミラーの説は有名。しかしこれは研究に基づいたものではない。最新の研究によると魔法の数は4である(p.49-51)。
認知負荷と運動について。ある物事が機能している仕組み(システム)のその人なりの理解の仕方であるメンタルモデルと、システムを実際に利用することによって得られるシステムの理解の仕方である概念モデルの区別。メンタルモデルと概念モデルが一致しないと、そのシステムは使いにくく受け入れがたいものとなる。通常は、人々が使おうと思っている仕方であるメンタルモデルに概念モデルを合わせる。だがあえてインターフェースのデザインを変えずに概念モデルを不変とし、(時間はかかるが)人々のメンタルモデルを変えるようトレーニングを提供することもある(p.78-83)。認知的資源の消費が大きく負荷のかかるのは、思考などの心的処理>視覚認知>(マウスクリックなどの)身体運動の順。よって、多くの情報を提示してユーザに考えさせるより、詳細はクリックさせて別とする段階的開示の方が良い(p.66-72)。筋肉の動きと感情は深く結びついている。ある感情を表出する時に使われる筋肉を動かせないと、その表情に伴う感情は得られない。なので、例えば字が小さいと人は目を細めて眉をひそめて読むことになり、嬉しさや 親しみやすさを実感できなくなる可能性がある(p.192f)。
人の社会性。他人や他集団の行動の分析や説明は性格的要因で、自分や自集団の行動は状況的要因で行われがちである(根本的な帰属の誤り)。特にアメリカなど、個人主義的行動を重視する文化ではこの傾向が強い。たまたま出会った人に手助けしないという行動は、他人の場合は自己中心的な人だとして性格的要因で説明されるが、自分の場合は急いでいるからと状況的要因による説明がなされる(p.159f)。安定した社会集団のサイズ、「強い絆」の集団のサイズは、148人が上限(ダンバー数)。この数は、時代や文化を超えて共通。この数を超えるものは弱い絆(p.168f)。
動機付け。目標に向かっていくとき、すでに完了したものよりも、到達までに残っているものに注目するほうが強く動機づけされる。目標に近づくほど、目標を達成しようとする気持ちは強くなる(目標勾配)。そこで、あらかじめスタンプが押されていない10個の欄のポイントカードより、あらかじめ2個スタンプが押されている12個の欄のポイントカードのほうがスタンプ全欄を達成する速度は早い(p.132f)。人は自分で決定することを好むが、そのための選択肢は多ければ良いものではない。選択肢は3つか4つに絞り、それ以上多くの選択が必要ならば階層的にするほうがよい。アイエンガーのジャム実験によれば、ジャムを6種類並べたときと24種類並べたときは、試した人が多いのは24種類の方だが、購入した人が多いのは6種類の方だった(p.234-237)。
なお古い脳(爬虫類脳)仮説(p.123)、マシュマロ実験(p.151)など、いまでは疑念が大きく呈されているものも、特に注記無く登場している。少し注意すべき点もあろう。
Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。
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