読んだ本をひたすら列挙。読書のペース配分とその後の読み直しのためのメモ。学而不思則罔、思而不学則殆。
市民参加型の手法、参加型テクノロジーアセスメントは、市民参加のレベルと、参加結果の政策に対するインパクトから分類されている。市民参加の程度が低い順から、情報提供、意見聴取、参加、協働、権限付与と整理される。それぞれに代表的な手法として、サイエンス・カフェ、パブリック・コメント、熟議投票、コンセンサス会議、市民陪審などの手法がある(p.19-22)。さらには、必要な時間や費用なども含めて整理されている表(p.221)もあり、とても参考になる。たとえば、コンセンサス会議の開催にはCCの開催には300万円は必要だという。各種の助成金から資金を集めたり、年度を跨ぐ資金の苦労などが語られている(p.39-41)。
手法としてはコンセンサス会議、ディープダイアログ、シナリオワークショップという三つの手法の実践例が書かれている。また行政が主催するものの記録も書かれている。コンセンサス会議は、1999年に行ったインターネットに関するものを記録。かなり綿密な準備が必要であることが窺えるし、会議の結果を展開していくことの難しさもある。また、会議を進行させるファシリテーターの重要性。ファシリテーターは必要だが、その個人的技能に依存してはならない(p.43f)。なかでも最大の課題は、ワークショップに参加してもらう専門家のリクルートだった(p.47)という。
ディープ・ダイアローグは、市民と専門家の対話を深めることを狙いとして、著者たちが開発した手法だ。コンセンサス会議では議論が十分でなく対話が深まらないという批判に応えたもの。コンセンサス会議をモデルとしつつ、コミュニケーションの密度を高める狙いがある。まず、事務局と専門家が議論の出発点として「鍵となる質問」を作成し、別の専門家がこの質問に答える形で市民に対してプレゼンテーションを行う。この別の専門家が登場するところが鍵だろう。市民はこのプレゼンテーションを元に自らの「鍵となる質問」を作成し、これを用いて市民と専門家が対話し、その後、市民が論点を整理して「市民の提案」をまとめる(p.76-79)。扱われているのは、2005年に行った脳死・臓器移植に関するもの。
シナリオワークショップは、2003年の三番瀬問題についてのもの。シナリオワークショップでは、未来像としてのシナリオを複数用意する。それらを手掛かりに、グループ内、全体での討論により共有できる未来像を作り、未来像に向かって行動計画を作る。このシナリオワークショップでは、特に専門家や参加者(特に行政)を集めるのに苦労している。専門家の多くが既に三番瀬円卓会議に関係していたため、参加してもらう専門家を探すのに苦労した(ただしなぜ二重参加ではダメなのかはよく分からなかった)。また行政の参加者については千葉県、市川市、船橋市、浦安市に現役・OBにわたって候補者を探したが断られ、見つからなかった(p.131f)。
行政が主導する参加型テクノロジーアセスメントは、2001年2月の農水省GMO-CC(遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議)が取り上げられている。コンセンサス会議の開催が省内で認められるまでの経緯や、運営主体についてといった裏話的なものが興味深い。省内で認められるまでに8ヶ月を要したとされるが、個人的には中央官庁が主導的に新しい手法で始めるには、むしろ早いとの印象を持った。コンセンサス会議は、開催したあとでも国民を啓蒙する一つの手法と認識されている。農水省の外郭団体である農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)がコンサンサス会議の受託機関になったが、もともとパブリック・アクセプタンスを手掛けていたゆえに、コンセンサス会議の運営としては困難を抱える側面もあったという。参加型イベントを行政機関が用いることへの壁はGMO-CC以降かなり低くなった(p.156-163)。他にも東北経済産業局が2007~2008年にかけて行った参加型イベント、「小型家電を考える市民の会議」も論じられる。
ハイレベルで論じられるものは、参加型イベントの公平性・公正性を確保する運営委員会の必要性(p.197f)。スタッフの人員として難しい場合もあるが、結果が正当性をもって政策に反映されていくには必要なものだろう。また、参加型テクノロジーアセスメントを政策に結びつけていくには、政府・行政機関がイニシアティブを取らなければならないともある(p.201-203)。これもその通りで、結果をきちんと政策に反映させていくことが事前に合意されていないと、ただの意見聴取に終わるだろう。
Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。
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