fc2ブログ

Entries

落合渉悟『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』

AlgaというDAOツールを開発している人の一冊。Algaとは何かという解説を始めとして、後は開発に向けた思いをポエム(あるいは檄文)的に書いたもの、三つの対談、お勧め書籍などを集めている。書籍に足るページ数になるためにいろいろ集めたのかなという印象。


Algaを単なるDAOツールとしてではなく、ミニ国家を作るものとしている。えてしてWeb3業界の人たちのように、思いは熱いのだが、私には素朴な技術決定論に見える。中央集権・Web2=悪、分散・Web3=善という図式が見える。なぜいまのような中央集権的な体制が選ばれているのか、その社会的要因を分析することなく、分散技術ができれば解決する、というのは発想として単純だろう。人々はなぜ中央集権を選ぶのか。アーキテクチャ、インセンティブ構造はどうなっているのか。もちろん技術が突破口になることはあるが、Web3が置き換えようとするものの大半は技術的要因で困難を抱えているものではないだろう。


例えば、DAOで地方自治を行うことにして、誰もが提案、投票できるようになったとして、何か変わるだろうか。単に一市民が提案しただけでは、一意見として扱われて終わる。その意見が通るには、対談の中でも言われているように政治家のようなパスを持つ人を介する必要がある。DAOの要点はみんなが意見を持たなければならないということではなく、異議申し立てをするパスが誰にも開かれているということだ、というコメントもあるが、異議申し立てができたところで何にもならない。それは路傍で愚痴を吐いているだけだ。DAOで分散しようが、必要なのは権力を持つエージェントである。集中か分散かという問題ではないだろう。


自ら考えた国家の定義だったり、資本主義は財の私有を認めることに尽きるとか、人権論はカントの「純粋」理性批判にあるとか、どうも基本的知識から怪しいと疑われてしまう。倫理活動家ティムニット・ギブルが指摘しようとしてグーグルを解雇されることになったのは、大規模言語モデルの悪用の可能性だと対談で言っているが、これは事実誤認だろう。彼女がメインに据えていたのは、電力消費やCO2の問題だ(MITテクノロジーレビュー解説原論文)。


直接民主主義的な仕組みは、少なくとも人々の関心や注意が様々で政治に向けられる部分が限定的な現代では、適切なアジェンダ設定とファシリテーション無しには機能しない。つまり、それ自体でミニ国家、メタ国家を作れるような自律した仕組みではない。この点は、分散化技術によって解決される課題ではない。


DAOはおそらく、参加、投票、自動実行の三つがポイント。参加はトークン発行による、その後に高く転売できる望みをかけた優れて資本主義的なインセンティブか、自分のDAOへの貢献履歴を保持する名誉欲を刺激するインセンティブをメインにする。投票はトークン保持に応じた投票権の管理で、これは単なる参加券なので意味はない。自動実行はスマートコントラクトによる実効性の確保で、決まったことが実行されないリスクや、そのリスクをカバーするための監視機関や処罰機関のコスト削減。こうしたものの何が必要なのだろうか。唯一意味がありそうなのはスマートコントラクトだが、それなら別にソフトウェアロボットでよかろう。

スポンサーサイト



この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
https://exphenomenologist.blog.fc2.com/tb.php/1439-3c8e127a

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

別館:note

検索フォーム

QRコード

QRコード