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ヴィランティ牧野祝子『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる ポジティブフィードバック』

リモートワークがここまで浸透したことにより、国内外を問わず、バックグラウンドの異なるメンバーとビジネスをする機会は、これからますます増えてくることでしょう。多様性を認め合う世界の動きは、もう誰にも止められません。
これは、「伝えないと相手には絶対にわからない」時代が来ている、ということでもあります。
リーダーである皆さんにとって、ポジティブなひと言、ポジティブフィードバックを駆使して人と人を繋ぎ、お互いの能力を引き出すことが大事な仕事となることは、疑いようがありません。(p.217)
説得的な良書。本書のポイントは明確で、ポジティブフィードバックの重要性について。部下に対する接し方を中心に述べられているが、ポジティブフィードバックの重要性は誰に対してであれ変わらないだろう。なぜポジティブフィードバックが大切か、行う際のポイントや注意点は何かを分かりやすく書いている。


ポジティブフィードバックはカーナビのようなものだ。ポジティブフィードバックにより、仕事をやる方向が正しいかを確認できる。こまめなフィードバックにより、仕事のやり方が明確になるだけでなく、効率的で高品質のアウトプットが可能になる(p.27f)。ポジティブフィードバックは、受け取る側が肯定的に捉えてくれなければ成立しない。受け手が素直に、ポジティブに言葉を受け取れるような人間関係を前もって構築しておくことが必要だ(p.34f)。ポジティブフィードバックをするには、やってもらって当然ではなく、やってくれて幸せという風に意識を移すことが必要である(p.228)。おなじみのマズローの欲求5段階説や、一時期流行りの心理的安全性といった考えも関わってくる(p.40-43)。そんなに部下に媚びなければならないのかと捉える人もいるが、チームのモチベーションを管理して中長期的にも成果を出していくのがマネジャーの仕事なのだ。


ポジティブフィードバックは、相手を承認することに基づいている。この承認には4種類がある。(1)成果に対する結果承認。強みや得意にフォーカスし、成功体験を共有する。これにより強い人間関係も構築できる。(2)行為そのものや過程に対する行為承認。過程や方向性を肯定することで、自信につなげる。(3)存在そのものに対する存在承認。もっとも基本的な承認で、無関心の反対。(4)将来の可能性に対する可能性承認。改善ポイントを将来への期待として肯定する。ネガティブフィードバックをポジティブフィードバックに変えること(p.59-89)。



ポジティブフィードバックを行うには、5つの原則がある。(1)頻繁に行うこと。ポジティブフィードバックは、伝える側が分かりにくい言葉を使ったり、受け手に受け取る準備ができていないことにより、そもそも伝わりにくい。一度で伝わっていると思ってはならない。(2)行動に対して、その場で細かくフィードバックすること。(3)受け手がフィードバックを受け取りやすい場所、人間関係が構築しやすい場所を選ぶ。会議室のミーティングにこだわらず、移動中でもよい。(4)具体的に、なぜ良かったのかを伝える。(5)笑顔で明るい声で伝えること。ポジティブフィードバックは相手と仲良くなる必要はなく、相手の行為について良かったところを伝えるもの(p.102-124)。


ただポジティブフィードバックをすればいいのではない。注意点が3つ。(1)思ってもないことで適当に何でも褒めない。(2)ただ優しいだけになって甘く見られないようにする。(3)ネガティブフィードバックもきちんと行う(p.238-241)。


ネガティブな内容、改善点や至らないところをどうやってポジティブフィードバックするかがもっとも難しく、もっとも重要なポイントだろう。ノウハウ、コツとして7つが書かれている(p.129-161)。(1)肯定的メッセージと否定的メッセージ(改善点)は8:2の割合にする。(2)否定的メッセージは、前後に肯定的メッセージで挟んで伝える。(3)否定的に過去について話すのではなく、どうしたらいいかと未来へ目を向ける。(4)改善点の裏にある期待と承認を前面に出す。(5)否定的な内容を𠮟責して伝えるのではなく、肯定的な言葉遣いや言い方で伝える。将来の可能性につながるように。逆接(but)でことばをつなげようとしてしまったら、順接(and)に切り替える。(6)なぜできなかったかを相手と一緒に分析し、相手に答えを出してもらう。(7)自分の考えや思いを伝えるだけでなく、相手にどう思うかを聞く。



ポジティブフィードバックは自信を与えて成長させるだけでなく、自主性を育み意見が出るようにするため、時代に合わせて柔軟に対応できる企業文化を生むという(p.44-48, 58)。部下の側からは、ポジティブフィードバックは自分で聞きにいくのが望ましい。仕事に対する姿勢を知ってもらうきっかけにもなる。週に5分ほどの隙間を見つければ良い(p.192-198)。また、360度評価を行ってみんなでポジティブフィードバックを行いあえばよいとする。360度評価は、様々な視点から意見をもらうことで、改善すべき問題がより自覚できる、と述べる(p.176-191)。ただ、360度評価は評価の内容や企業文化によって効果が異なる。著者は360度評価を行っている企業は離職率が低いという論文を示しているが、逆の主張をしている論文もあり、360度評価について学術的に定まった評価はないと考えるべきだろう(たまたま目についたものとしては、武脇誠「360度評価における同僚評価の研究」)。


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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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