読んだ本をひたすら列挙。読書のペース配分とその後の読み直しのためのメモ。学而不思則罔、思而不学則殆。
著者の主張は2020年9月と日付が打たれた冒頭の論考、「来たれ!社会主義」に尽きている。ちなみに邦題はなぜか「新しい」が入っている。それは、経済格差と気候変動の問題にいかに対処すべきかにある。経済格差の本質はイデオロギー的、政治的なものであって、経済的、技術的なものではない(p.4)。政治的な制度改革によって解決できる、されるべきものだ。すなわち、過去100年間、特に1980年代にピークを見るヨーロッパの格差の縮小は、教育、保健医療、年金、社会移転などの公的支出によるものだ。ただし格差の縮小とはいえ、最貧層50%の私有財産シェアはさほど変わっていない(p.4-9)。
富裕層を利する(特に)税制体制ではなく、誰もに開かれた来たるべき参加型社会主義は、4つの柱からなるという。教育の平等と社会国家、権力と富の恒久的な循環、社会連邦主義、持続可能で公正なグローバル化(p.19)。あとは各論考において、著者の観点からその都度の政策や政治動向が論じられる。大きな枠組みに立ちつつも、個々の細かな論点をデータを引きつつ論じている。
マクロンの税制改革には何度も批判を行っている。マクロンの税制改革はフランス革命以来初めて、再富裕層の所得区分や資産区分に対して、明らかに例外的な有利な税制を導入している。この点では、トランプとマクロンは似た者どうしだ(p.93)。富裕層への課税を強化すると、外国への頭脳流出が起きたり、イノベーションを阻害する懸念があるとされるが、データからはそうしたことは言えない。むしろ格差を縮小し、教育に投資して国全体の知識レベルを上げる方が有効だ。最富裕層から積極的に富を循環させる方法は、誰もが受け取れる裁定相続額を設定する案が良い。誰もが25歳で12万ユーロを受け取る案が挙げられる(p.12)。この案はなかなか面白い。
さらには、国際主義、超国家主義が掲げられる。国家単位での政策決定や、国家同士の競争では国家主義は格差や気候の問題を悪化させるだけだ。こうした問題への対処のため国際主義、超国家議会を再建する(p.218-221)。こうして、EU加盟国の国会議員を新たに欧州議会議員とする、欧州の民主化のためのマニフェストを何名かで掲げている(p.126-131)。この発想はEUでは通用するが、EU域外まで含めようとすれば世界政府に近くなるだろうか。
ちなみに著者の社会主義は、バーニー・サンダースにかなり近いようだ。バーニー・サンダースが提案してるような政策(国民皆保険制度、教育への大規模な公共投資、最低賃金の水準の大幅な引き上げ)だけが、アメリカの民主主義を蝕んでいる格差や労働者階級の選挙への不満を最終的に解決できると考えられる、と高く評価する(p.198)。
Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。
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