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バーナード・マー、マット・ワード『世界のトップ企業50はAIをどのように活用しているか?』

様々な業種から合計50社の企業における、機械学習の活用事例を集めたもの。邦題は「トップ企業50」とあるが、何らかのランキングに基づくものではない。原題は「実践における人工知能:成功した企業50社は問題を解くためにいかに人工知能と機械学習を使ったか」であって、トップ50とかではない。ただし、なぜこの50社が選ばれているのかは本文でも結局、説明されていない。機械学習の活用で有名な企業が多く含まれている。基本的にはBtoCの企業。


企業はアメリカ、ヨーロッパ、中国に及ぶ。ただし中国は手薄。アリババ、テンセント、バイドゥ、京東(JD.com)、そしてあまり知られていないだろう医用画像解析によるがん診断を提供する企業、Infervisionが取り上げられている。見て分かるが中国企業はいわゆるネット企業の第一世代。第一世代が築いたプラットフォームの上で、ゼロからデータを活用してビジネスを築き上げた企業群、例えば美団、滴滴出行、拼多多、ByteDance(Tiktok)はいないし、ましてiFlytekもSenseTimeも出てこない。選定基準が説明されないこともあり、これは偏りが大きいように思われる。例えば、スターバックスが中国で餓了麼と組んでデリバリーサービスに乗り出したのを抜け目がないと評する(p.143f)が、これはむしろラッキンコーヒーに押されて取った選択肢と見るべきだろう(ただ敵失で結局は成功した)。こうしたあたりに、中国企業の動きへの理解の甘さがうかがえるように思われる。


機械学習の主なビジネスユースケースは3つだと整理されている(p.9-11)。(1)顧客理解と顧客との接点。推薦エンジンを典型例として、データから顧客を理解し、新たな接点を持つこと。(2)インテリジェントな商品・サービスの提供。テスラやウーバーを典型として、機械学習を活かしたサービスを提供する。(3)ビジネスプロセスの改善と自動化。配送自動化や不良検知など、既存の企業内のプロセスを自動化すること。


あくまでビジネスレベルの活用例で、あまり深いところまでは踏み込んでいない。情報源は基本的に各社サイトやブログにおける公開情報やプレスリリースと、Financial TimesやWiredといったビジネス系雑誌の記事。企業の機械学習の活用の様子は国際学会で発表、論文として公開されるものも多いが、そうした情報源はほとんど使われていない。


すこし面白そうだなと思ったのは、pymetricsを導入したユニリーバの人材採用システム(p.157-160)、事実収集とファクトチェックのRADAR(p.202-205)、画像解析による偽造品鑑定のEntrupy(p.252-256)といったところ。他は聞いたことがある話か、できるだろうことが予想できるもの。


また、工夫点についてはあまり得るものがない。価値がないと考えられてきた過去の航空券販売データに注目して、将来価格の予想を可能にしたHopperの話(p.273)がそうした情報か。単なる活用例ではなく、工夫点や面白いポイントが読み解けるとよいだろう。


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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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