読んだ本をひたすら列挙。読書のペース配分とその後の読み直しのためのメモ。学而不思則罔、思而不学則殆。
モバイルインターネット、センサーやIoTの普及、AIと機械学習などにより特徴づけられる、第四次産業革命の民主政治への影響を考えることが本書の話題。その影響は3つの側面で考えられる。政治に関する情報流通の変化、民主主義における新しい合意形成の仕組み、政治制度のアップデートだ(p.11-15, 224f)。それぞれ、フェイクニュースに抗するメディアと政党の情報発信、オンライン熟議と討論型世論調査、電子投票と電子議会という話題が扱われている。
例えばフェイクニュースに対してはBuzzFeedの創刊編集長が相手。デジタルジャーナリズム時代のニュースには、3つの戦略があるという(p.42)。記事を読者に届けるためのコンテンツ戦略(読者に自分事と捉えさせる、感情に訴える、知識を提供する、行動を促す)、情報の内容に基づいて分ける配信戦略(利用プラットフォーム、ターゲットユーザ、コンテンツ)、読者とニュースの関わりを深めるエンゲージメント戦略(シェア数、コメント数、閲覧時間をKPIとする)。またフェイクニュースに対抗するためのメディアやプラットフォームの役割として、メディアリテラシー教育、ファクトチェック、メディア倫理を挙げる(p.61)。
製糖の情報発信などは普段あまり窺い知れない領域で面白い。自民党が情報分析を重視するようになったのは、2010年11月の尖閣諸島巡視船の動画がYouTubeに上がった事件だという。このとき、テレビとネットの立場は逆転した(p.78-81)。社会に関する粒度の細かいデータが集まってくれば、今後は天気予報のように社会現象を予測できるようになるかもしれない(社会予測)。これは計算社会科学的な発想だ。そうすれば政治は人々に先回りして対応するようになる(p.89-93)。政党には民意を集約する受動的な機能と、人々に情報を提供し、時には説得するという能動的な政治的社会化機能がある。現在は受動的な情報分析だが、社会予測ができれば能動的な機能も果たせる(p.97)。一方、この話題で触れられべきなのは個人データのプライバシー。個人情報データのアメリカの実情の話で、Cambridge Analytica事件が出てこないのはなにか妙だ(p.93-95)。
熟議民主主義の話はとても参考になる。情報技術が民主主義にもたらすポジティブ面とネガティブ面がそれぞれ3つ挙げられる(p.109-115)。ポジティブ面は、民主主義の効率化(熟議のために人々を集めるコストの削減)、情報集約(頻出キーワードの抽出などの自然言語処理の活用)、セレンディピティの機会の創出。ネガティブ面は、個人単位に情報がカスタマイズされることによる集団分極化、政治判断がAIに任せられるシンギュラリティ、「私たち」という集合的意識の消失。熟議に対する影響としては、シンギュラリティ的に政治をAIに置き換え熟議の必要性が消失する、情報集約をAIに分担させた上で熟議を行う、情報化の仕組みそのものを決めたり、それでも残る公共的な意見を生み出すために熟議の役割が逆に大きくなるという三つのシナリオを描く(p.117-123)。
熟議民主主義については、フィシュキンの討論型世論調査のやり方が詳細に載っており面白い(p.136-148)。これは日本でも、2011年に公的年金制度の在り方を巡って行われていたり、エネルギー・環境の選択肢を巡って行われている。熟議を経て当初の意見から人々の意見が変わっていく様が描かれる。
電子投票についても、日本や諸外国の様子がよくまとまっている。日本では2002年に電磁記録投票法が施行されて電子投票への道が開かれた。しかし2003年7月の岐阜県可児市の投票で投票機が故障し、その後の裁判で選挙結果の無効が確定したことで立ち消えになってしまった。秘密投票の原則をどう守るかが鍵となる。突破口はいま著しく非効率な、在外投票で、検討が進む。電子議会は、議場に物理的にいなくても出席を認めるなどの構想。これについては国際電子議会会議が何度も開かれているが、日本からはほぼ誰も参加していない。意外にもラテンアメリカで議論が盛んとのこと(p.204)。
Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。
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