読んだ本をひたすら列挙。読書のペース配分とその後の読み直しのためのメモ。学而不思則罔、思而不学則殆。
まずは逆数学における基本中の基本である算術化について解説する。有理数、実数、連続関数を自然数と自然数列によって表現していく。個人的には、連続関数の算術化の話はあまり読んだことがなかったので印象に残った。実数上の連続関数は、定義域の各点を極限とする有理数列における値から関数の値を決定できる$f(a) = \lim_{n \to \infty} f(a_n)$。したがって連続関数は、有理数集合、ひいては自然数の集合によって符号化できる(p.40f)。
ついで本書で主に扱う解析学の定理をおさらいする。ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理、ハイネ・ボレルの定理、中間値の定理、極値定理といったもので、これは通常の解析学の内容。ただ後にケーニヒの補題を用いた議論につなげるべく、区間縮小法に着目している。区間縮小法を用いた証明のように、解析学において木構造が鍵となる概念であることは、強弱のケーニヒの補題と解析学の様々な定義が同値であることを逆数学が示してから認識されたものだ(p.75)。
本書の(本書に限らないが)逆数学の議論では$\mathrm{RCA}_{0}$を始め、計算可能性の話が中心的役割を果たすため、計算可能性、計算的枚挙可能性、決定可能性の解説がなされる。以上のもと、次は論理式と証明の算術化に入る。ここは少し難点だろう。スマリアンの初等形式体系というあまり知られていない体系を用いて解説されている。ここは好みが分かれるだろう。個人的には他の通常の体系で解説された方が馴染みもあってよかったかと感じる。
ここまでが準備で、この先にようやく逆数学の議論へ入る。中心となる二つの体系、$\mathrm{ACA}_{0}$と$\mathrm{RCA}_{0}$を取り上げ、解析学を中心としたさまざまな定理の同値関係を簡潔に紹介していく。計算可能集合の存在公理を$\mathrm{PA}$に追加した$\mathrm{RCA}_0$は、単調収束定理(すべての有界な単調列は極限を持つ)など、いくつかの定理を証明できない。しかしそのおかけで、それら証明不可能な定理と同値になる集合存在公理を見つけて、それら定理の強度を比較できる。この点で$\mathrm{RCA}_0$は解析学の定理を研究するための理想的な基礎理論である(p.90f,119f,148)。
逆数学では$\mathrm{RCA}_0$, $\mathrm{WKL}_0$, $\mathrm{ACA}_0$, $\mathrm{ATR}_0$, $\Pi_1^1\mathrm{-CA}_0$を五大体系とする。だが、数学のすべての定理がこれらの体系に位置づけられるわけではない。本書では組み合わせ論の定理が、これら体系から見るとかなり強いものであることが書かれている。無限ラムゼイ定理のような組み合わせ論のいくつかの定理は、$\mathrm{ACA}_0$で証明できない。さらに組み合わせ論のロバートソン・シーモアの定理は$\Pi_1^1\mathrm{-CA}_0$でも証明できない(p.138, 170-172)。
巻末には日本でこの分野を切り開いてきた第一人者によって、本論のやや正確でないところに対して適切な指摘がなされている。逆数学は話題としては面白いので、雰囲気が伝わる(だけの)ような本があると、興味を持って知られるだろう。
Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。
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