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ブリタニー・カイザー『告発』

トランプがデータの果たす役割について、何を信じ、 何を信じ、何を信じなかったにせよ、周囲の人間は明らかにデータの重要性だけでなく、その活用方法も理解していた。 データ、メトリクス、測定結果、慎重に作りあげられたメッセージングーーそれらすべてと、それ以上のものが、CAがトランプのために働いた期間に、最大限に活用されて効果と効率を生みだしたのだった。CAが参加したときは、トランプ・キャンペーンは劣勢にあったかもしれないが、投票日までには、効果的なだけでなく、勝てる集票マシーンになっていた。CAは、手元にあったあらゆるテクノロジーを使い、ソーシャルメディアから売り込まれた新しいイノベーションも取り入れて、ヒラリー・クリントンに対してかつてない規模のソーシャルメディア戦争を繰り広げたのだ。(p.298)
フェイスブックを中心としたビッグデータを用いたマイクロターゲティングによって、選挙支援を行っていたCambridge Analytica(CA)の元社員による内部暴露本。期間としては著者がCAに関わりだす2014年初頭から、スキャンダルによりCAが解散する2018年半ばまで。記述はかなり詳細で、多少のメモは取っているだろうが数年前の事柄をこうも書けるのは力量を感じる。500ページ弱もあるが、たいがいはルポルタージュ風なので読みやすい。ところどころには心境の吐露があり、何があったのかを知りたい向きにはどうでもいいところもある。


まず著者の果たした役割は営業担当、新規顧客や新規市場開拓だったので、CAのマイクロターゲティングの実際の内容についてはそこまで詳しくはない。営業担当が顧客に対して自社技術や実績として話すように知っている程度。例えば、CAに対する最初の疑惑は、入手したフェイスブックのデータを削除したと約束しながらも保持し活用し続けていたのではないか、というものだった。著者はデータベースへのアクセス権限は持っていなかったので、どちらであるか答えは出ていない。


著者はもともと学業の傍ら、人権活動家、政治活動家として活動している。2012年のオバマ大統領の選挙にも選挙陣営のボランティアとして関わっている。2014年初めに友人を介して、CA(とその親会社のStrategic Communications Laboratories, SCL)のCEOであるアレクサンダー・ニックスに出会う。この人物はイギリスの上流階級っぽいポッシュな出で立ちで、欧米のみならずアフリカなどでも選挙コンサルティングを行っていた。SCLのクライアントにはアメリカの共和党もあった。2014年11月、民主党支持の自身の信条とは違って共和党を支援しているCAで働くには思い悩んだが、サブプライムローン危機とエンロン破綻の余波を受けた家族を養う必要がありCAに就職する(p.42-46)。この思いの背景には、ビルの外で声を上げる市民運動家ではなく、ビルの中の権力側へ、権力者を直接動かす方へ行きたいというものもあったようだ(p.51-54)。


CAとフェイスブックのつながりが多く話題になるが、CAの設立にはグーグルが顔を出す。CA設立のきっかけは2013年、グーグルCEOのエリック・シュミットの娘ソフィーがSCLにインターンで働いたことだ。この時、アレクサンダーはソフィーからグーグルアナリティクスについてが深く学んだことがきっかけになっている(p.128f)。そしてCAを設立したのは、アレクサンダーと、共和党支持のアメリカの大富豪マーサー家、そしてあのスティーブ・バノンである(p.143f)。Cambridge Analyticaという名前は、バノンが命名したものだ(p.192)。このケンブリッジの名前は、フェイスブックのデータを巡って出てくるケンブリッジ大学の研究者とかかわりがあるようだ。


CAの特徴は何といっても、そのデータベースの大きさだ。ExperianやAqusium、Infogroupなどアメリカ国民の個人情報を売っている会社からすべてを買い上げたり、アクセス許可を得ていた。さらにこうしたデータをフェイスブックのデータや、公的にアクセス可能な投票傾向に結び付けた。また、フェイスブックで性格診断テストを提供し、友達APIを介して回答した本人だけでなくその友人のデータも収集した(p.105-112, 190-194, 227f)。この友達APIによるデータ取得が最初のスキャンダルの種になる。友達APIそのものは2015年4月30日にフェイスブックが提供を停止した(p.119, 201-205)。


これらの膨大な個人情報、何百万人の個人についてのそれぞれ数千のデータポイントから、各個人をビックファイブ理論に基づいて数値化する。ビックファイブ理論とは個人の性格を開放的open、誠実conscientious、外交的extraverted、協調的agreeable、神経質neurotic(あわせてOCEAN)の5つの側面から分析するもの。これにより、(1)人々をどこの会社よりも高度に、微妙に異なるグループに分類した。(2)正確な予測アルゴリズムを構築し、クライアントに提供した。(3)人ごとにメッセージを届ける最適なプラットフォーム、場所を見つけようとした。(4)人にメッセージを届けるコンタクトを管理し有効性を評価するツールを用意した。(5)マイクロターゲティング戦略により、それぞれのターゲットごとにコンテンツが届けられ、反応に応じて改善された(p.114-118, 287-290)。


個人単位のプロファイリングや類型化に基づく政治的関心の在りかの定式化。そしてもっとも効果があるメッセージ内容や表現方法、提示チャネルの絞り込みがCAの強みだろう。そしてこれら個別のパターンに合わせた、同一内容の何千ものパターンの広告やメッセージの作成、効果が出ているかどうかの細かな確認を可能にするダッシュボード、そしておそらくABテストを含む自動的なメッセージ提示の調整という仕組みだ。アレクサンダーの印象的な言葉では、人々を思い通りに動かすには、そのように動く可能性が高くなる条件を整えることが必要だという。映画館でコーラを売りたければ広告を増やすのではなく、室温を上げるべきだ(p.68f)。


2015年前半、著者はまずナイジェリア大統領選挙での案件を得るべく奮闘する。しかしやがて、ブレグジットとアメリカ大統領選挙の案件に巻き込まれていく。この案件はどちらも、後のスキャンダルで大きな問題となる。CAが活躍したのはアメリカ、イギリス、メキシコ、そしてアフリカが中心。個人情報を取得して分析していくアプローチは、個人情報の収集が容易でないところではうまくいかない。フランスでは2015年9月に2017年大統領選挙に向けてニコラ・サルコジに売り込むも、プライバシー意識の高いヨーロッパではCAのアプローチは受け入れられず意気消沈してロンドンに戻っている(p.164f)。


2015年12月11日には、CAがフェイスブックのデータを不正入手しているという記事が『ガーディアン』に出る(p.190-192)。このガーディアンのスクープ以降、テッド・クルーズの選挙キャンペーンチームから距離を置かれ始めていたマーサー一家とCAは、2016年春にトランプに徐々に乗り換えていく(p.246f)。著者はワシントンDCのオフィス開設を始めとして、この選挙キャンペーンの契約に関わっていく。


ちなみにCAがアメリカ共和党の候補者と仕事をしていたのは、アレクサンダー自身が共和党支持者だったからわけではない。単に民主党はオバマの選挙戦の時からデータを分析するという施策が進んでいて、競合が多くいたからに過ぎない(p.131-133)。2007年以来、デジタルコミュニケーションを支配したのはオバマの民主党だった。2012年大統領選挙での共和党の壊滅的な敗北を受けて、CAは共和党に不足している技術を提供して民主党と対等に勝負させるために登場したことになる(p.23)。アレクサンダーを含めCAは、そもそもトランプが大統領選挙で勝つわけがないと思っている。トランプの大統領選挙は、その後のビジネスのためのただの売名だと(p.156f, 230)。もともと民主党支持者の著者は、この説明に流されていく。同様に、ブレグジット支持団体Leave EUとの案件を模索しつつも、ブレグジットで離脱派が勝つわけがないと思っている(p.169, 263)。おそらくはこうした、ただビジネス案件が取れればいいのだという態度が後の大きな問題のそもそもの種だろう。


そのトランプの選挙キャンペーンは、多額の金をソーシャルメディアに注ぎ込むことになった。CAだけでも1億ドルがフェイスブックをほとんどとするソーシャルメディアに注ぎ込まれた。後に分かるが、CAにはあまり利益は残らなかったようだ。ソーシャルメディア側も、高度なサービスを提供するとともに、社員を無償で派遣している。フェイスブック、グーグル、ツイッター、スナップチャットの社員がCAのデータサイエンティストとともに、CAのオフィスで働いていた。一方、ヒラリー・クリントンの陣営はこうした支援を断っていた(p.250-253)。トランプの選挙戦では、こうしていわゆるビッグテック企業が深く関与している。


トランプの選挙キャンペーンでは、地区や個人単位で中心的な論点を明らかにし、トランプの遊説場所やメッセージの内容を決めた。個人へのマイクロターゲティングは広告とメッセージングで行われた。同じコンセプトの広告が何千ものバージョンが作られ、個々の有権者に合わせて提示された。こうした施策の展開は、サイフォンと名付けられたダッシュボードに表現され、トランプ本人を始め選挙キャンペーンの戦略に関わる人々が監視した。メール一通あたりのコスト、アクセス方法別のコスト、一つの広告の1インプレッションあたりのコスト、クリックスルー率などが監視され、問題があれば音や色を変えるなどの調整が試された(p.289-293)。こうしたバージョンの中にはヒラリー・クリントンを攻撃するフェイクニュースや、恐怖心を煽る動画なども含まれる。


CAのつまづきとなる大きなスキャンダルは、イギリスから始まる。2017年2月、結局、契約には至らなかったLeave EUとのブレグジット支援をなかったことにしてイギリス個人情報保護監督機関(ICO)に回答するよう、著者はアレクサンダーから指示を受ける。だがLeave EUの人間が『ガーディアン』のインタビューに答え、CAとのつながりの疑惑が大きくなり、ICOの捜査も始まる。著者は疑惑の中心人物とみなされてジャーナリストの追及を受ける。しかしアレクサンダーの支援はなく猜疑心は募っていく。このあたりのアレクサンダーの動きや心理は見えない。著者は著者なりに成果を上げていると思っているが、目立った昇給や昇進といった形で認められず、不満が募る。アレクサンダーの考えや自分をどう評価しているかも見えなくなっていく。2018年2月にはイギリス下院デジタル・文化・メディア・スポーツ省DCMSの審問をアレクサンターが受けるなど、旗色は悪くなっていく(p.321-331, 391-400)。


アメリカでは2017年秋、トランプ陣営にロシアが関与していたという疑惑に始まって、CAとトランプの関係にも議会の追求や司法委員会の捜査が向けられるようになっていく(p.376f)。CAへのダメージとして決定的に最悪だったのは、2018年3月19日のイギリスのテレビ局チャンネル4が放送した、CAへの潜入取材であった。ここで見込客を装ったレポーターに対して、アレクサンダーたちは法的にも倫理的もきわどい、卑劣な活動、選挙民を操るための方法を売り込んでいる。(p.423-428)。


CAの危機が本格化する前に、ハードワークが一向に報われない著者は、ブロックチェーン業界に活路を見出す。現在はブロックチェーンを用いて個人データを自ら管理する仕組みを広げようとしている。心境の吐露や悔悟の念のあたりが長く、大部の記述の割にはCAが実際にどんな技術で何をしたのかについては、著者は中心にいないので見えにくい。読み物としては十分に読ませるものがある。

 もっとも、私が滑りやすい坂道を転げ落ちたのにはもっと多くの理由があった。
 一部は心理的なもの、一部は純粋に自尊心の問題だが、一部は貪欲さのため、というより請求書の支払いに充てる額以上の報酬が欲しくなったためでもある。だが、こちらの弱みにつけ込んできたカリスマ男に魅了されてしまったことも否定できない。 アレクサンダー・ニックスとケンブリッジ・アナリティカ(CA)のために働いていたあいだにした選択については、私に全責任がある。それでもこれだけは言っておきたい。私は若く、無防備だったのだ。 アレクサンダーが私のすべてを知っていたわけではない。彼にも、ほかの誰にも家族の本当の財政状態は明かしていなかった。ところがアレクサンダーは、今とは違う状況であれば絶対にやらなかったことを私にやらせるだけの十分な「データポイント」を握っていたのだ。(p.209f)
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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