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李智慧『チャイナ・イノベーション2』

中国のデジタル、ITの社会適用について、いくつかのトピックを扱ったもの。新型コロナウィルス対策、デジタル国家戦略の経緯、アント・グループ、テンセント、ファーウェイ、バイトダンス、そしてデジタル人民元について。それぞれのトピックは事項について分かりやすくまとめられている。ただ全体としては雑多なトピックを扱っており、一冊としてのまとまりは薄い。


新型コロナウィルス対策については、中国IT企業の様々な技術が活かされていることが述べられる。接触者追跡において、iFlytekの自動音声発信が広く使われている。湖北省では6時間で20万人にコールし、政府職員8000人分の仕事をしている(p.23f)。iFlytekは安徽省合肥市で地方政府の大きなバックアップのもと成長してきた。合肥市はiFlytekに次ぐ企業を生み出すべく、声谷(スピーチ・バレー)の形成を進めている(p.77-82)。


また、新型コロナウィルス接触者の特定や消費換気のデジタル商品券の配布においては、国民IDによる公的個人認証基盤や、それと連投するメガテック企業の決済インフラが役立っている。デジタル商品券はアリババ、テンセントなどのメガテック企業のプラットフォームで迅速に行われた(p.33-36)。日本でも地方自治体がpaypayを使って還元策を行って、商品券の配布に比べて20分の1くらいにコストを削減する話があるが、そうしたプラットフォームは行政からも活用されていくだろう。


中国のデジタル国家戦略を1978年から5か年計画を中心に追う話は、事項について詳しいが、記述は平板。なぜそう変化したのか、意思決定過程はどうだったのか、諸外国や当時の状況から見て何がポイントだったのか分からない。ここから本書の全体のストーリーに沿って、何を読むべきかなのか見えてこない。


アントグループの話題では、相互宝が興味深い。相互宝は疾病保険で、ジーマ信用のスコアが650点以上なら無料で加盟できる。重大疾病の際の医療費補助の保険金は加盟者全員で分担する。アントグループの収益源は、分担金全体の8%の管理費だ。伝統的な保険会社のビジネスモデルと違って、保険金の支払いが多いほどアントグループの収益が上がる。ユーザと利益を共有する、なかなか面白いビジネスモデルだ(p.114-116)。しかし相互宝を始めとする後払い割り勘保険には、保険業としての政府規制が入り、また加入が容易なことから逆選択が働いてビジネスモデルは崩壊。2021年中に各社から出ていたすべてが運営停止したそうだ(解説記事)。


また、ネット人口成長率の頭打ちを受けて、アリババもテンセントもBtoBを強化しているという流れがうかがえる。コロナ禍でのリモートワークやオンライン教育の広まりは、そうした流れの典型例だ。オンラインミーティングのツールをテンセント(Tencent Meeting)、アリババ(釘釘)ともに提供。アリババは2020年9月に他社のビジネスを支援するアリババ・ビジネス・オペレーティングシステム構想を発表。すでに老舗アパレルブランドの波司登の在庫管理、スターバックスのデリバリーシステムを支援している。地域の個人商店の店舗運営を支援するLST(零售通)も(p.126-138)。一方でテンセントはパートナー企業を緩やかに支援する形でBtoBに展開する。テンセントクラウドの柔軟な計算能力を提供し、中小ITベンダーと組んで金融機関向けに非接触型営業システムを提供など(p.152-158)。


あとはファーウェイとバイトダンスの発展を追う。ファーウェイがグローバル企業に成長したいくつかの要因。(1)5G開発に見られる多額の開発費を導入する一点集中突破戦略、(2)農村や海外から攻める迂回戦略、(3)優秀な人材や研究開発への多額投資、(4)設立10年で5600人の従業員だった1997年から10年間行ったIBMに依頼した全社的な業務プロセス改革。アメリカの有力な多数のコンサルティングファームを導入し、会社の様々な部分をアメリカ流に変えた(p.187-192)。ハーモニーOSの展開はまとまっていて参考になる(p.205-211)。ファーウェイの強さの秘密は、(1)自己革新する組織、(2)現場主体のイノベーション、(3)変化に適用する分散型組織、(4)自社開発、(5)型破りなインセンティブ制度に挙げられる(p.211-226)。


バイトダンスについては、その急速なグローバル展開を支えるコラボレーションツール、「飛書」が興味深い。TeamsとGoogle docsを合わせたものをイメージする。良いものがなければ自分で作ってしまう開発力がある。飛書は外販もしている(p.247-253)。バイトダンスについても強さの秘密は、(1)想像したことを現実に変える力(これはあまり中身を伴うポイントではない)、(2)社内BBSでの徹底的な透明性の実現、(3)業務部門をフロントとミドルに分離したイノベーションを生みやすい組織設計、(4)OKRの導入による戦略志向の目標管理、(5)飛書による効率的な社内外のコラボレーション、(6)住宅補助や360度評価による人材の重視(p.253-267)。


面白いポイントはあれど、散発的で全体のメッセージは見えてこない。またBtoCのサービスが中心で、中国のデジタルといってもITサービス以外はあまり見えてこない。例えば合肥市の産業育成なら半導体企業の話もあるはず、など。

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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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