多文化主義Multiculturalismについての解説本。フランスの著者向けに、アメリカの政治状況を解説したものだ。個人的にはちょっと期待はずれだった。基本的にポストモダン思潮のなかで書かれている。ポストモダン的な社会思想(ボードリヤールとか)やカルチュラル・スタディーズ(ホールとか)が好きな人にはいいだろう。
基本線は、多文化主義の問題とは近代性の限界であるというもの。近代性は基本的に、公の領域と私の領域を分離してきた。人種、宗教、地域などの様々なアイデンティティの問題は基本的に私の領域に押し込められていた。公ではそういう問題を持ち出さないことが必要とされた。だが、押し込められていただけで存在しなかったわけではない。多文化主義の問題は、それが公の領域に登場するようになったことだ、と。
しかしいまいち論の筋が一貫していないと感じた。多文化主義というとたいていは出自、宗教の多様性に関するものだ。だがこの本では例えばジェンダーの問題や、Politically Correct運動も視野に収めている。PCにはまるまる第三章をあて、それが言語の語用論的側面を無視し、純粋な意味論を求めていると言語哲学的批判を加える。また第四章はポストモダン思想の劣化した特徴付けだ。これは図式的すぎ、かなり粗雑。
第五章以降は抽象的な思想論議が続く。どうもポイントが分からない。訳者解説でもあるように、ここは多文化主義に関する論争(リベラル・コミュニタリアニズム論争など)に踏み込んだほうがよかったかもしれない。多文化空間の四モデルは、モデルとしてそこそこクリアなので(Corporate Multiculturalismが今ひとつピンと来ないのだが)、これをもっと始めの方で提示し、具体例を出して分析した方が良かったのではないか。フランスにも、学校スカーフ問題、ドレフュス問題、アルジェ問題など題材はあるのだから。
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