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葉村真樹編『都市5.0』

本書は一般的な都市に関する書籍群とは異なり、このような「メディア」をはじめとした、あらゆるテクノロジー進化の歴史と、それにともなう人間の生活を取り巻く社会経済的な変化に焦点を当てる。それが都市5.0の時代の「都市」を考えるうえで、極めて重要なバックボーンであるにもかかわらず、多くの「スマートシティ」などの議論において、まったく欠けている点だと考えるからである。(p.17)

次世代の都市についての論考や試みを集めた一冊。次世代都市と言えば、IoT端末などのセンシングデータを広範に利用するスマートシティが有名だ。この都市5.0は(うまくいっているかは別として)スマートシティとは一線を画す。都市に住む個人をより中心として構成することを目指す。


都市5.0というアイデアそのものは、黒川紀章の言う都市の発展形としての「個人の都市」から来ている。黒川によれば現在は「法人の都市」であり、個人を労働力や消費者として効率化(機械化)している。都市5.0ではデータ分析と人間中心設計を組み合わせた、個人を中心とした、個人の拡張としての都市を目指す(p.12-14)。スマートシティはデジタル化による効率化や最適化、すなわちデジタライゼーションである。都市5.0の掲げるアーバンデジタルトランスフォーメーションはスマートシティとは異なるという(p.15)。


本書のさらなる思想上の軸は、都市をメディアという観点から見ること。都市に人々が集うことにより、様々なコミュニケーションなど相互作用が生まれる。そして都市は、こうした相互作用をさらに発展・加速させるように進化する。すなわち都市はコミュニケーションメディアとしての機能を強化していく。都市は情報が大量に集積し、処理される場所として生まれた。生命体に例えれば、都市は(情報処理器官としての)脳の拡張と言える。そうした情報の蓄積と処理はメディアによって加速され、都市はさらに多くの付加価値を生むこと可能になった(p.27)。


メディアを拡張するテクノロジーは、マクルーハンを引いて人間の機能と感覚の拡張であると考えられる。テクノロジーによる人間拡張は、インフォメーション(情報の認知と処理)、モビリティ(移動)、エネルギー(動力)の3つに大きく分けられるという(p.48-51)。テクノロジーを人間の生体機能の拡張と考える視点は重要だし面白い。ここには例えばセキュリティとしての免疫機能を追加したりできるだろう。


コンセプトの面と、都市の歴史を追った章は面白い。だがその後は、スマートシティの議論でもよくある話が続くように思われる。立川駅周辺の人流データ分析とか(p.142f)、第5章のMEMS慣性センサー、圧電素子センサーを用いたIoTデバイスによるインフラ監視、予防保守とか。


都市に生きる人間中心という話題は後半に現れる。MaaSで移動を実現するだけでなく、移動した先での用件(買い物など)を含めてサービスを融合するCity as a Serviceの構想(p.205f)。その地域「ならでは」の個性の育成と、それによる地域に対する愛着や誇り、シビックプライドを醸成する試み。尾山台の商店街における店舗の継続意向調査や、歩行者天国時間帯の市民の滞留と交流を促す、商店街コミュニティ活性化を目指した「おやまちプロジェクト」(p.229-241)。単なる緑化技術ではなく、自然環境や多様な生物がもたらす資源や仕組みを賢く利用し、様々な社会課題の解決に役立てるグリーンインフラのアイデア。生態系の多様性保全を出発点とするドイツの環境都市、治水や雨水管理を重視するシンガポールやアメリカのポートランド、ニューヨークのハイライン(廃線高架の緑道)(p.250-262)。


論集なので統一感は少ない。最初に掲げられた理念はまだまだ発展途上と見える。

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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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