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川越敏司『マーケット・デザイン』

オークション理論とマッチング理論についての一冊。本書の体裁からするには記述のレベルはやや高い。このレベルの議論を数式なしで、縦書き選書のスタイルで読むのは正直、やや辛い。記述は専門的でしっかりしているので、むしろきちんとした形態の本で腰を据えて読みたいような内容。


本書ではマーケット・デザインを以下のように特徴づけている。マーケット・デザインは、市場メカニズムの利用が適切でない場面で、権力者など外部の命令によらずに、経済主体が分権的、自主的に、全体として望ましい結果を実現するような誘因を与える配分方式をデザインすることである(p.39)。もともと市場メカニズムがうまく利用できない場面を適用対象としている。そのために、マーケット・デザインは市場に任せておけばうまくいくという市場原理主義には与しない。市場の失敗のあるところで、市場に変わる方式を考えるものである。選好という、経済主体がそれぞれ持つ情報が自発的に表明され、集計されるという点で、ハイエクの考えをマーケット・デザインは引いている(p.13f)。


なおこの分野は、マーケット・デザインと、メカニズムデザインという語が並列している。マーケットデザインはメカニズムデザインの一部であると考える人もいるが、根本的な違いあると考える人もいる。アルビン・ロスやポール・ミルグラムによると、メカニズムデザインは理論的な探求であり、目標で実現するメカニズムを理論的にデザインすることを目標としている。一方、マーケットデザインはデザインされたメカニズムを実地に適用する上での、様々な制約条件を考慮していく工学的なものである(p.69f)。


本書の大きな特徴の一つは、この意味でのマーケット・デザインであることだ。すなわち、理論的には等価であったり最適であったりしても、現実にはそうなるとは限らない。行動経済学や実験経済学の手法を用いて、現実に何が起こるのかを述べようとしている。実際に実験室でオークションやマッチングを行ってみる。理論通りに行く場合もあるが、たいがいはそうはならない。この辺りは実験経済学を生業とする著者ならではの視点といえる。


マーケット・デザインは市場メカニズムがうまく行かないところで使われるのだから、まずは市場メカニズム、よくあるミクロ経済学の話から始まる。そこでは、市場の財が互いに代替関係にあり、所得効果が代替効果を上回らないという粗代替性のもとでは、静学的であれ動学的であれ、市場均衡が一意に存在してしかも安定であることが語られる(p.50-52)。さらには、耐戦略性を持つ市場均衡は存在しないというハーヴィッツの不可能性定理。また、市場メカニズムを含むどんな配分方式でも、耐戦略性、パレート効率性、個人合理性を同時に満たすものは存在しないというマイヤーソン、サタースウェイトの不可能性定理(p.67f)。パレート効率性と個人合理性を満たす配分をコアと呼ぶ。マーケット・デザインでは、市場均衡の領域を包括する、コアの領域で最適解を探るものとされる。


オークション理論では一位価格オークションと二位価格オークションをざっと解説。二位価格オークションは耐戦略性を満たす有力な方式だが、実際にはあまり普及していない。2つの理由が挙げられている(p.104-108)。(1)オークション運営者が不正をし、二位価格を操作する可能性がある。(2)評価値を入札することが支配戦略のため、オークション運営者に自分の評価値が分かってしまう。競り上げ式は二位価格オークションと戦略的に同値だが、この二番目の点は異なる。さらに、自分の評価値が設定できず情報収集にコストがかかる場合や、予算制約がある場合は評価値を入札することは支配戦略にならない。


しかし二位価格オークションはGoogle広告で使われていて、世界で最も使われているオークション方式ではないかという疑問があろう。実際はGoogle広告のオークションは、複数の広告枠がオークションにかけられる異質財の同時オークションである。さらに、一つ順位が下の入札額が支払額となるものであり、一般化二位価格オークションと呼ばれる。これは二位価格オークションとは最適戦略は異なる(p.141-145)。


二位価格オークションは売り手の収益が最大となるオークション方式である。これをヴィッカレーの収益同値定理という。この収益同値定理が現実的には成り立たないことを、オークション実験を引いて説明していく(p.113-124)。この箇所はけっこう難しく、理解が追い付かない。ついで複数財オークションでは、VCGメカニズムが詳説される。VCGメカニズムの課題は、二位価格オークションの課題に加えて、配分決定のプロセスがNP困難であること、架空名義入札による不正の可能性が指摘される(p.158-160)。


マッチング理論は基本的に、受入保留方式の解説となっている。その有名な応用例は研修医マッチングで、本書はその経緯がポイントよく書かれている。特に順位優先方式との違い。イギリスの研修医マッチングでは順位優先方式が用いられた。アルヴィン・ロスはイギリスの研修医マッチングでは、順位優先方式を取った地域では次第に参加者が少なくなりマッチングが崩壊したが、受入保留方式の地域ではマッチングが存続していることを指摘。さらに安定的なマッチングを生み出す受入保留方式の優位性を実験で確かめた。理論的なものが実験でも支持された例だ(p.201f)。


日本でのマーケット・デザインの導入は、優秀な研究者が何人もいる割に進んでいない状況が書かれる。研修医マッチングでは、2009年度に都道府県別に地域定員が設けられたが、地域定員が設定されると、受入保留方式では安定的なマッチングを導けない(p.205)。著者も、北海道の入札改革において、入札者をランダムに排除するランダムカット方式が非効率的であることを指摘するものの、現場ではうまく理解されない様を描いている(p.219f)。



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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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