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オリバー・ペレス、グレッグ・カプラ『デイトレード』

とてもよい一冊。短期のテクニカルトレードにおける心構えについて。原著では第一部が投資心理、第二部がテクニックの解説だそうだが、邦訳は第一部のみ。基本的な原理は明確。理解してしまえば後は同じことの繰り返しを書いているように見える。こうした心がけは、自分で同じような境地に近づいているとよく身に沁みて分かる。自分もようやく同じような境地まで来たので、実に納得して読むことができた。


トレーディングの戦略やテクニックは、その背景にある精神の準備ができていなければ意味がない。成功しているトレーダーは、そのトレーディング手法が優れているのではなく、思考が優れているのである。手法は限られたもので十分だ(p.20,24)。結局は自分の心理傾向に抗うことが成功の秘訣となる。自分自身が成長と発展の最大の障壁であり、自分自身しかそれを乗り越えられる者はいない(p.202)。


テクニカルトレードにおいてはチャートがすべて。チャート以外を考慮することは、トレーディング計画を揺るがすことになる。戦場は戦術に疑問を持つ場所ではない。疑問は、取引を開始する前、あるいは取引が終了した後に行うべき(p.28-36, 72-74,115f)。だから考えすぎてならない。あれもこれもニュースに接したり、他人の分析を参考にすることは程々にすべき。情報は多ければ良いものではない(p.122-124)。トレーディングで利益を上げるための要素の8割は心理的な要素が占めている。手法や技術を身に着けた後は、成否を決めるのは思考過程の質である。多くの場合、知識が欠けていることで失敗するのではなく、知識に耳を傾けないことによって失敗する(p.100)。


何よりも大事なのは、トレーディングの日誌をつけ、なぜ失敗したのかを分析し振り返ること(p.214-220)。ただし、過去に囚われすぎることはトレーディングでは有害である。過去は振り返るものであって、将来を見通すためのものとは限らない(p.105-107,136f)。損失を被った場合、それが間違った戦略によるものなのか、戦略を間違って適用したことによるものなのかを区別しなければならない。戦略が正しいかどうかは1回では決まらず、10回の取引を必要とする(p.71)。


ほぼすべてに渡って強調されるのは、損切の重要さ。適切な損切りは、過度な損失を回避し、次のポジションを取れるチャンスを得たという点で負けではなく、勝ちである。損失を少額に留めることを学べば、生き残ることができる(p.140-143, 269f)。損切に失敗しないためには、(1)損切の水準を決めずにポジションを取らないこと、(2)あらかじめ定めた水準で損切を行うこと。どうしても難しい場合は、半分のポジジョンを損切ること(p.166f)。


優れたトレーダーは以下の7点を信じている。(1)迷った時には、ポジションを手仕舞う。(2)ポジションは取り直すことができる。(3)ポジションをすっきりさせれば、頭の中もすっきりする。(4)ボンクラが利益を上げることも時にはある。(5)20%下落した銘柄で5%の損失で済んだなら、それは敗北でなく勝利である。(6)最良の防御は最良の攻撃である。(7)ポジションを手仕舞うことは、明日もポジションを取れることを意味する(p.46)。これらの裏返しとして、トレーディングにおける7つの大罪(p.164-192)。(1)すぐに損切りできないこと。(2)実現してもいない利益を眺めること。(3)トレーディングの短期、中期、長期の時間軸を変更すること。(4)より多くの情報を得てから取引しようとすること。(5)連勝して自己満足に陥り、警戒を怠ること。(6)ストップ・ロスを無視するなど、間違った勝ち方をすること。(7)株価についての自分の思いを正当化すること。


自分のトレーディングも損切がうまく設定できるようになって、大きく改善した。損切が設定できないトレードは最初から失敗だ。本書で印象に残ったのは、あまり多くの情報に接しないことと、実現していない利益を眺めること、時間軸を変更すること。たしかに有名な人のコメントを参考にしてトレードしたときなど、たいがい失敗する。また実現していない利益を眺めると、後でがっかりするか、適切な益出しのタイミングを見失ってしまう。時間軸の変更も、戦略が狂う大きな要因だ。更にトレードすべきでない状況として、長い連勝の後の2連敗、理由が分からないが集中できない(何か勘づいている)、突発的なマーケットの動き、身体的・精神的な不調のときというのも参考になる(p.228f)。

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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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