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中野崇『マーケティングリサーチとデータ分析の基本』

細かな統計分析の解説ではなく、より上位レイヤーからリサーチの基本を描いた一冊。はじめに読むには適する一冊だと思う。本書で言うリサーチとは、アンケートやインタビューに限定されるものではなく、ビジネス課題を解決するためのあらゆる情報収集や分析を指す(p.22f)。したがってデスクトップリサーチでのざっくりとした市場や競合調査なども含んでいる。

リサーチは7つのステップで行われると説く。優先順位の決定、目的の設定、調査企画の設計、データ収集、分析・解釈、アウトプット作成、アクション(p.24f)。このプロセスに沿って、まずはどんなリサーチでも共通する基礎的事項がよくまとまっている。

特にアンケートやインタビューなどの新規にデータを取得するリサーチを行うにあたっては、調査企画書の重要性が強く説かれる。調査背景、調査目的、調査地域、調査対象者、回答者数と割付、調査手法、調査項目、調査時期、調査費用の9項目をしっかりと押さえる(p.58-84)。調査項目はあれもこれも聞きたくなるが、きちんとなぜ聞くのかを明確にして作成すべき。調査目的に合致しているか、調査後のデータ分析の視点に用いる項目か、AIDMAなど購買行動のメンタルモデルに位置づけられるか、調査仮説に基づいてるかの4つから見る(p.74-80, 118f)。

著者はインターネット調査会社の人ということもあり、インターネットリサーチには好意的。インターネットリサーチは当初はインターネットユーザというバイアスを気にする声があったが、人口普及率は2015年には80%を超えており、バイアスを気にする声は少ないという(p.71)。実際はセグメントでは偏りがある(地方の高齢者などは少ない)し、そもそもインターリサーチに応じる人(ポイント稼ぎが主)というバイアスがまだまだある。また、口コミはあまりにポジティブやネガティブなものは避け、日常感覚に近くちょっとした心の動きがうかがえるものを選ぶ。少数の口コミだけ見るのは避け、最低でも30件、できれば50件は見ること、というポイントもある(p.51f)。

インタビューでは何を聞きたいのかしっかり準備することが大事。インタビュー背景、インタビュー目的、インタビュー対象者、対象者の数、インタビュー項目、インタビュー時期、インタビューフローの7項目でインタビュー企画書をまとめる(p.88-95)。これは調査企画書とほぼ同様。インタビューでは調査対象者や調査テーマへの理解が何よりも重要である(p.96-98)。

結果の分析に先立ち、手短に仮説の構築について扱われる。良質な仮説を生み出すには、自分も試してみるなどのフィールドワークが重要(p.110-113)。分析では目的、比較対象や母集団、購買者属性や購買理由などの構造・構成、相関関係・因果関係、分布の5つを押さえる(p.122)。あまり技術的な細部に埋もれること無く、概要レベルで重要なポイントを洗っている。

最後には実際に調査を行いビジネスの意思決定をしているマーケッターたちの記事があり、なかなか面白い。フリスククリーンブレスの販売に際してペルフェッティ・ヴァン・メレが行ったニューロリサーチが目に留まる(p.178-183)。2分間のWeb用広告動画を見てもらい、複数名が「感情を喚起された」場面を特定したもの。調査の詳細はないが、脳波測定の様子の写真からはNIRSで前頭前野の血流変化を測っているのだろう。

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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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