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朝野熙彦編『アンケート調査入門』

マーケティングにおけるアンケート調査について書かれた一冊。マーケティングの研究者のみならず、消費財のメーカで実際にマーケティング・リサーチを担っている人たちが執筆に参加している。そのため、アンケート設計などについてとても実務的な記述が窺える。

画一的な製品から、細分化されたニーズに応える商品へと消費者のトレンドが移っているのに合わせて、マーケティングの調査テーマも変化している。この変化は4つにまとめられる。意識化された意見から、無意識の消費者ニーズの洞察を得ることへの変化。事前にマーケッタが立てた仮説の検証から、仮説の発見への変化。消費者の言葉による回答から、表情や身振りを含むノンバーバルな行動観察への変化。定まった選択肢による調査から、自由記述など消費者の自発的な反応の分析への変化(p.8-14)。

調査担当者はいきなり調査の内容に入らずに、まずは調査を依頼した人のマーケティング課題を理解することが強調される。調査によって解決したいマーケティング課題は、機会発見、手応え、選択、検証、予測、診断の6つに分かれる。後者になるに従って、あるいは意思決定者が現場から遠くコンテキスト情報を持っていないに従って、定性的な調査から定量的な調査に変えるのがよい(p.56-59)。マーケティング課題を定義し、リサーチ課題を正しくブレイクタウンできれば、リサーチの8割方は成功する。逆に言えば、失敗の原因の大半はマーケティング課題の理解にある。成功させるためには、リサーチの実施前に、リサーチ依頼者と担当者の間で、マーケティング課題とリサーチ課題を確認する(p.68)。

典型的な調査は、質問に対する選択肢があらかじめ提示される構成的なアンケートだろう。コンテクストによって回答が変わらないリサーチ課題は、質問紙調査が効率的である。それに対してコンテクストに応じて回答が変わるなら、非構成的なデータ収集法が良い(p.32f)。ただし例えば構成的なアンケートとは違い自由回答によるアンケートでは、ある回答が存在しないからといっても、その論点が単に念頭に浮かばなかっただけかもしれない。欠損値をNoとみなすことはできない、といった事柄を始め、自由回答の処理は難しい(p.22f)。

調査対象者はターゲットの周りも含めるようにしておき、ターゲットの回答と比較できるようにする、というポイントは参考になる(p.63)。また、調査によって知りたい項目を明らかにし、調査課題に最も直結した情報から質問を開始すること(p.80-82)、質問は5W1Hの一部を問うものであるから、5W1Hの他の要素が明確であるような質問文にすること(p.88)など実践的なアドバイスも見える。

後半は調査の結果得たデータの処理について。テキスト処理について、形態素解析や係り受けの解析ののち、共起関係を探るものや、重回帰分析について扱われる。pハッキングやn数の水増しについての注意もなされている(p.163-168)。望むような結果が得られないからといって、調査を追加してn数を増やすのはご法度。最後には調査の報告について扱われる。調査報告書と別にプレゼン資料を作り、それぞれで強調すべき、書くべきポイントが異なる(p.208-215)。

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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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