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島村華子『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』


児童発達学の専門家による平易な一冊。モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育の考え方を用いながら、子供に対する接し方を書く。ときおり教育における科学的実験の話もあり、末尾には参照文献も載る。ただそれらは抑制されており、簡潔にポイントを示しながら進む。想定読者をよく考えている。

保護者が子供に接する態度として、無条件の接し方(unconditional parenting)と条件付きの接し方(conditional parenting)が区別されることが出発点。子供の行動の善し悪しにかかわらず愛情を注ぐのが無条件の接し方とされる。無条件の接し方では、子供の考えや行動の理由を考える。これは、条件付きの接し方のように単に子どもの行動だけを見て判断するのとは異なる。無条件の接し方では、考えて行動しようとする一人の人間として子供を扱っている(p.19-22)。

無条件の接し方による子育てには、5つの原則がある(p.28-43)。(1)褒める時も叱る時も、能力や見た目にではなく、努力や経過について具体的に言及すること。(2)自律し、意志を持った存在として子供をみなすこと。保護者が持っている、子供とはどのような存在かというイメージに合わせるように子供は育っていく。(3)子供に向き合いながらも、制限を体現して道しるべを示すリーダーであること。つまり範を示すこと。(4)子供の発達段階に合った要求をすること。幼年期の子供は、理由を説明したり、はたまた片付けること自体、能力的に難しい。(5)保護者自身の行動が、子育ての長期的なゴールにどう貢献しているか、または邪魔になっているかを意識すること。

そして具体的な場面でどう褒めるか、叱るかが扱われる。特に叱ることは褒めることより難しい。それには4つの原則が挙げられる(p.95-107)。(1)叱るよりも前に、まず子供が何をしたかったのか、何を言いたかったのかを尋ね、理解し受け入れること。(2)結果ではなく、努力やプロセスに目を向けること。(3)好ましくない理由、取った言動の他者に与える影響を具体的に説明すること。(4)親の気持ちを正直に伝えること。こうした、行動の客観的描写、受け手や周りの人の感情の伝達、行動の影響の説明、回避策の提案がポイントとなる。

また子供の思いをまず受け止めるには、傾聴、つまりアクティブ・リスニングが重要なスキルとなる。これも4つのポイントにまとめられる(p.134-141)。(1)ボディーランゲージのSOLER原則(Square, Open, Lean, Eye contact, Relax)。(2)無条件に子供の話を受容する精神を持つこと。(3)ただ単に言葉を反復したり、明確化、要約すること。(4)評価、アドバイスの提案、話を逸らすといったコミュニケーションのバリケードを設けないこと。

正直、事例やQ&Aで挙げられるように理想的に事が運ぶことはないだろう。思いを受け止めて、でも別の提案をしたところで、元のもとに固執し続けるのが子供だ。それに対する解は本書にはない。とはいえ、自律し、独自の意志を持った存在として子供を見なすこと、というのはこの上なく重要なポイントであって、まずもって問われるのはむしろ保護者側がそうした存在でありえているかだろう。
しかし、本来子どもが求めているのは評価ではなく、何かを達成したとき、新しいことを発見したとき、嬉しいことがあったときに、大好きな両親や先生とそれを共有することなのです。[...]つまり、喜び・興奮・驚きなどといった感情を、大切な人と一緒にわかちあうことで、自分の居場所があるという感覚が生まれ、幸せな気もちになるのです。(p.63)
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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