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安藤馨・大屋雄裕『法哲学と法哲学の対話』


二人の法哲学者が、お互いに提題者と批判者を交代しつつ、計6つのテーマについて論争を繰り広げる。各テーマに対して、著者以外の立場として隣接する学問分野の論者もコメントを付して参加する。二人は、安藤が功利主義・物理主義的スタンスを取り、大屋が規約主義・構成主義的スタンスを取っており、各テーマでその違いが際立つ。

各テーマは挑発的でスリリングなもの。論争の発端となるように、ラディカルにこの機を捉えて提題されているのだろう。人格という考えで人類だけを優先することの適否。団体は法人格として擬制により認められるのではなく、個人もそもそも空間・時間断片からなる団体とするもの。政治的意思決定そのものの決定根拠から人格を構成的に捉えるもの。不能犯と未遂犯を区別する視点から、新派刑法学を肯定的に復活させるもの。平等はある観点からの平等を得ようとするものだから、他の観点に対する不平等を含むというもの。最高法規としての憲法と「違憲だが合法」という考え(自衛隊や一票の格差)を、法的に妥当な推論法則として分析するもの。そしてそれぞれ、倫理学、民法学、政治哲学、刑法学、政治学、憲法学の陣営からコメントが付される。

論争は法哲学やひろく法律学の基本的発想や見解を前提としており、門外漢にはかなりレベルの高い議論。あまり理解は覚束ない。お互いの批判も、個々の論点に反論するというより、別のスタンスから、論点そのものが成立しないことを示そうとすることが多く、かなり錯綜している。しかしこれらのテーマについて馴染みの深い人には、ラディカルに考えたらどうなるのかという論点をあぶり出す、ネタの宝庫だろう。

まるでプロの囲碁や将棋の対戦のような、高度なレベルの真剣な知的遊戯を見る思いがする。そしてこれを機に積年の疑問をラディカルに問い直す姿勢と、お互いそれを受け止めるやり取りは、実に当人たちが楽しそう。楽しんで論争している感じが伝わってくる。

ちなみに表紙についている英題は"A Dialogue between Jurisprudence and Legal Philosophy"とある。法哲学(Philosophy of Law)という言葉は実は出ていない。これらの語に込められた含意はどこにも書かれていない。
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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