

特集は圏論について。様々な分野における圏論を使った議論の展望が扱われている。トポロジー、数論幾何、論理学、集合論、ガロア理論、プログラム意味論といったすぐ考えられる応用先から、ネットワーク、芸術、哲学といったやや挑戦的なものまで。そういえば量子力学の話はない。エッセイ風のものから、当該分野における圏論の使われ方をきちんと紹介する(そのため背景知識が多く必要とされる)ものまで、レベルは様々。
冒頭の丸山氏による概論はとても参考になる。論理学、物理学、計算機科学の間に圏によって対応をもたらすアブラムスキー・クッカ対応の話(p.20)とか、圏論的双対性やCoquandによるヒルベルトプログラムの現代的バージョンなど(p.29)。もともと圏論の由来となった代数幾何からの解説記事もよく書けている。ガロア理論を圏論的に記述することで、他の圏とのつながりが見えてくる話など分からないながら面白く読む。総じて、圏論は様々な数学的対象の記述言語であり、何かに還元するのではなく、圏論を使って別種の、統一的な見方が提供されると行った多元論的議論がよく見られる。
思想や哲学分野における圏論的記述は興味深いが、あまり評価はしづらい。アブダクションをコホモロジーとして解釈するもの(p.186f)や、自他の関係をスライス圏で解釈するもの(p.206-209)などがある。これらは単に圏論的記法を使って書けるというよりも、コホモロジーやスライス圏に関する定理を使って何か非自明なことが言えてこないと、あまり圏論を使う意味を感じられない。自他関係のスライス圏による解釈は、著者も書いているように自他をすべて先んじて圏全体として超越的に確保しているという点もさることながら、そもそもスライス圏の射の結合則が成り立つように定義できるのだろうかという疑念を持つ。必要なのは圏論でなくむしろネットワークグラフだとも見える。
またバティウがトポス理論に基づく存在論を展開している話も面白く読んだ。クワイン的に考えれば、一階述語論理に対するモデル論が存在論を提供する。したがって集合論、そしてトポス理論が存在論を記述しているというのは大変だけれどもありうる方向だろう。
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