

自閉スペクトラム、および自閉スペクトラム症について臨床経験の豊富な医師による一般向け書籍。対象読者は自閉スペクトラムの子供の保護者がメインだが、広く関わる人々を相手にしていると思われる。
自閉スペクトラムの人は、臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心、やり方、ペースを最優先する志向をもつ。これらが幼児期から見られる場合に、自閉スペクトラムという。自閉スペクトラムのうち、社会生活に支障をきたしている場合、自閉スペクトラム症という(p.3-6)。
幼児期に自閉スペクトラムの特性があった子どもは、多かれ少なかれその特性は残り続ける。自閉スペクトラムと他の精神障害の一番の違いは、起点となる正常な精神構造の時期が存在せず、乳幼児期からの独特な精神構造が成長とともに発達していくこと。自閉スペクトラムは発症する病気ではなく、生得的なものであり、生物学的なバリアント(変異)と見るべきものである(p.83f)。
いわゆる自閉症との関連では、自閉症で捉えたい事象の範囲が時代を経て拡大してきている。いわゆる自閉症は、1960年代後半に早期乳幼児自閉症として捉えられている。このときは有病率0.05%弱だった。1970~1980年代に自閉症の概念は拡大された。DSM-IIIでは乳幼児自閉症としえ捉えられ、有病率は0.1%程度。現在ではさらに拡大され、広汎性発達障害、すなわち自閉スペクトラム症として捉えられ、1%以上の有病率とされる(p.44-47)。
自閉スペクトラムの最大の特徴は、他人との独特の関わり方だ。他者の気持ちを動かすことはほぼまったく興味を持たない。気持ちを動かすのでなく、気を引くなどして行動を引き出そうとする(p.19)。対人関係やコミュニケーションが独特な自閉スペクトラムの子供は、通常の接し方では必要な情報が十分には伝わらない。通常、よいとされる子育て・教育の環境は、自閉スペクトラムの子供にとって必ずしも恵まれた環境ではない(p.99)。そして自閉スペクトラムの人はこだわりが強く、自分に過剰なノルマを課してしまう。そのため環境からストレスを受けることが多く、二次障害としての精神的変調のリスクが高い(p.67-71)。
本書の後半は、自閉スペクトラム症と二次障害、それに対する周りの人の対処について書かれる。幼児期から学童期はまだ二次障害が出現する前、あるいは出現し始めの時期。この段階で支援者(親)が定常発達に近づけようと過剰な期待を寄せると、思春期以降の二次障害につながっていく。周りの人は、苦手なことを伸ばすのではなく、できることで苦手なことを補うように幼児期から接していくべき(p.103-106)。このことに最大の障害になるのが、画一的な学校教育である(p.111-113)。明確に指摘されている通り、時間をかけて繰り返し量をこなせば、必ずできるようになるという幻想が教育界にはある。二歳児がどんなに反復練習しても漢字を習得できないように、適切な発達の段階にない子供にいくら反復しても意味はない。自閉スペクトラムに限らず、発達はそれぞれの子供で様々であるのに、年齢をもって一律的で画一的な教育を行う、現在の学校教育は特に問題となる。求められているのは、それぞれの発達段階に応じた教育が提供されること、すなわちインクルージョンと合理的配慮。画一的な学校教育とのこれらが両立するのは難しい(p.174-181)。
こうした画一的な学校教育についていけず、自閉スペクトラムの子供は不登校に陥りがち。不登校という現象は、周りからは初めて発生した、何かの始まりと見える。しかし本人にとっては、他の策を探ったり、我慢したりしてもうまくいかなった結果の最終段階である。周りとしては、始まりではなく最終段階として話を聞くことがまず大事。さらに、学校以外の居場所を作ること(p.199-201)。通常の社会とは別のところでではなく、社会の中で自閉スペクトラムの人たちが居場所を持てるサブコミュニティを作ること(p.185-187)。趣味のコミュニティなどがそれに該当する。ここで社会の中で、というのは、障害を持つ人達だけで形成されるような社会一般と隔絶されたコミュニティではないこと。
おそらくはこうした学校以外のつながりを持つことが大事と訴えたい文脈なのだが、学校教育に対する著者の評価の低さが気になる。中学生以降の勉強は日常生活のなかでほとんど使われないバーチャルなものであり、その点でゲームと変わらない。ゲームか勉強かのどちらかを選択させるよりは、中学以降の勉強は捨ててもよいので、リアルに人と繋がれる趣味をやるべきだ(p.138-140)。また、高校以上の勉強は将来の就労とは無関係である(p.208)というコメントも見られる。大きな違和感を持つ。
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