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エステル・デュフロ他『政策評価のための因果関係の見つけ方』


開発経済学の第一線の研究者たちによる、ランダム化比較試験RCTの方法論についての小冊子。もともとは開発経済学のハンドブックのなかの一章で、"Toolkit"と題されている。そのため理論の詳細を基礎から解説するよりは、そのポイントを連ねたもの。基本的な事項については解説されないため、初学者が読むには適さない。

単にRCTの概要だけでなく、それを開発経済学の実践の現場で使うときに出会う問題について詳しい。特に、途上国で前向き実験を行う場合には、2つの問題が挙げられる。まず、処置への割当がルール通りに行われているとは限らない。さらに、割当を決める変数の値がプログラムの実行主体(政府)によって操作されてしまう可能性がある。こうしたことはよく起こるため、後ろ向き実験でも例えば回帰不連続デザインはその仮定を満たさず、途上国では使いにくいとされる(p.13)。

他にもいかに調査の協力者(自治体やNGO)を得るか、など実践的なポイントが見られる。また実験計画として、検定力に一章を当てる。処置の割付をグループ単位で行う場合は、グループの数を増やしたほうが、グループ内のサンプルサイズを増やすことよりも検定力が上がることを示す(p.41-43)。さらに実験結果からの推論の妥当性、一般化の妥当性について扱われる。

面白かったのは不完全コンプライアンスについて。不完全コンプライアンスとは、処置群に割り当てられた被験者と介入を受けた被験者が完全には一致しないことを表す。手続きのミスで処置群でありながら介入を受けなかった場合もあるし、対照群との分離が不完全で、対照群でありながら介入を受けてしまう場合もある。このとき推定されるのは、介入の効果ではなくて処置群に割り当てられた効果ITT(Intention to Treat)となる。むしろITTが知りたい情報である場合もある。ある仮定のもとでは、ワルド推定量を処置群の被験者に対する平均処置効果として解釈することが可能(p.64-73)。

本書の3分の1ほどの分量を占める訳者解説は、EBPMをその必要性から説き起こしており、これ自体EBPMの解説として役立つ。いわゆるエビデンスのヒエラルキーと、どういう場合にどんな実験・準実験方法を選ぶべきかのフローチャートは、各手法の位置づけが明快になる(p.130f)。RCT、回帰不連続デザイン、マッチング、操作変数法、差の差推定、合成コントロール法、回帰分析、前後比較をエビデンスの信頼性から並べている。
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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