

フランク安田として知られる安田恭輔(1868-1958)の生涯に取材した小説。とても臨場感あふれ、良く書かれている。イヌイットたちの考え方、文化が感じれ、またアラスカの厳しい自然もよく描かれている。
フランク安田は石巻の医師の名家に生まれたが、三菱汽船の社員を経て渡米、船乗りとなる。アメリカ沿岸警備隊ベアー号にキャビンボーイとして乗船。ベアー号は海氷に閉ざされ身動きが取れなくなる。安田は有色人種への差別もあって追い出されるように船を降り、アラスカの北端の町ポイントバローに奇跡的にたどり着き救援を求める。船には戻らずポイントバローに定住。猟の名手となりイヌイットたちの信頼を得る。西欧人による鯨の乱獲による飢餓、同じく西欧人から持ち込まれた麻疹などの伝染病によって各地のイヌイットたちは壊滅状態に。イヌイットのなかでは進歩的な考えを持つネビロを妻とした安田は、折からのアラスカでのゴールドラッシュで金鉱を探していたトム・カーターとともに、新たなイヌイットたちの移住先を探しに南方のブルックス山脈を越える。安田とネビロは奇跡的に金鉱を発見する。当時の白人にしては義理堅く約束を守ったカーターにより、鉱山の下流にビーバーという村が整備される。そして安田はポイントバローから200人程度のイヌイットを引き連れ、ビーバーに定住。太平洋戦争での日本人強制収容を経たが、ビーバーに亡くなるまでとどまった。
かくして日本のモーゼとも呼ばれる安田は、印象としては非常に運がよく、非常に強靭な精神の持ち主であるように思われる。もちろんこの本は史実に基づくとはいえフィクションだが、晩年の安田の微妙な郷愁など(結局、ポイントバローに上陸してから一度も日本には帰らなかった)、印象深い。山岳小説を物している著者なので、ブルックス山脈を越えるあたりの記述は真に迫る。安田以外にも20世紀初頭のアラスカの極北地域でジョージ大島、ジェームズ・ミナノという日本人たちとばったり会っているのが面白い。
アラスカ関連読書はこれにて終了。
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