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福田晃一『共感マーケティングのすすめ』


とても良い本。インスタグラム上でのインフルエンサーを使ったマーケティングについて、かなり具体的に書かれている。著者はインフルエンサーマーケティングの実行を支援する会社を運営している。

キーワードはタイトルにもあるように、共感。SNSを使った新たなマーケティングにとって、売ることはプロセスでしかない。顧客が継続的に買ってくれることすらプロセスの一部。マーケティングのゴールは共感を生み出すこと。共感とは、購入したことが間違っていなかったという自分への納得のこと(p.11, 31)。こうした共感はSNS上でシェアされ拡散され、新たな共感を生んでいく。人が人に影響を受ける構図は昔から変わらないが、影響を受けた人がシェアし、また影響を与えようとすることが、いまの時代では異なるとする(p.25-28)。しかし、影響のシェアはクチコミという形で昔からあるもので、いまの時代のポイントはネットの検索可能性によって、従来とは異なる広い範囲に影響が広がるということだろう。

本書は徹底してインスタグラムに定位している。画像というビジュアルで直感的に伝え、同じ価値観を持つ人たちがフォロワーでつながりコミュニティが形成されるインスタグラムは、共感が可視化できマーケティングに使えるSNSだと言う(p.11f)。インスタグラムも一部のセンスの良い20代・30代が使うものから、よりセンスも年齢も一般化してきている。また従来よりもキャプション(写真に添えた文章)が重視されるようになってきているなど、変化している。本書はそうしたインスタグラムの使われ方の変化も踏まえている。

共感の広がりは、起承転結で進むと言う。起では何か(イベントや商品など)を発見する。承ではハッシュタグを追うなどして、他の人も同じ話題で盛り上がっていることに気付く。転では自分も買ったり行ったりして、この話題に参加する。結では自分が共感を発信する。最後の結は別の人の起となる。こうしてものが売れている気配、「雰囲気売れ」が生まれる。こうした行動を取る人々を、著者はプロシューマーと呼ぶ(p.32-40)。プロシューマーはUGC(User Generated Contents)などの文脈で通常は、Producer(生産者)とConsumer(消費者)の両側面を持つ人を言うが、本書で言うプロシューマーはPromoterとConsumerのこと。

インスタグラムで影響力があるインフルエンサーを使ったマーケティングが本書のテーマ。インフルエンサーによるマーケティングが有効なのは、テレビの有名人よりも、時間をかけてコツコツをフォロワーを増やしてきた一般のインスタグラマーのほうが、狙ったターゲットに低コストでマーケティングできるから(p.20f, 43)。著者の言うインフルエンサーは、基準としてはSNSをメインの活動の舞台で(芸人や俳優など、マスメディアがメインの活動の舞台ではなく)、フォロワー数が3000を超えているアカウントを言う(p.59)。ただしフォロワーが多くなると、単にアカウントを見ているだけの人が増えて、いいねやコメントがフォロワー数ほどつかなくなる。よって、フォロワー数が6000から30000の人が適すると言う(p.67-70)。

こうしたインフルエンサーは、自分独自の世界観を持っている。フォロワーもそうした世界観があることを期待しているので、期待を裏切るような投稿はしない。インフルエンサーにマーケティングで協力してもらうときも、こうしたそれぞれの世界観を尊重する必要がある。著者は、インフルエンサーは雑誌の編集者と同じと考えるべきとする。インフルエンサーは読者のことを考え、自分の紙面(アカウント)にどんな写真を載せ、言葉を添えるかを考える。インフルエンサーを使うマーケティングは雑誌とのタイアップと同じに考えるべきで、タレント起用のように考えてはいけない。どういう写真を載せるか、編集の自由を与えるべきだ(p.60-65, 80-83)。

一方で企業がアカウントを運営するときも、単にインスタグラムに詳しい担当者に任せるのではない。コンセプトをしっかり決め、インスタグラム用に写真を用意、加工すべき。近年ではキャプションも重視される。インスタグラムはカタログではない(p.87-101, 115f)。統一感やセンスのないアカウントの企業には、インフルエンサーは例えその企業の製品が写っていたとしても、ハッシュタグで動線を設けてくれない(p.105)。

本書のもっとも重要なポイントは、インフルエンサーの投稿が共感を呼ぶかどうかを評価する、共感指数を定義していること(p.121-142)。これがかなり考えられていて、素晴らしいものとなっている。共感指数の要素は、影響範囲の値RE、ハッシュタグによる発見の値HE、キャプションによる参考の値CE、イメージによる印象の値IEと、承認の値AEがある。共感指数自体は、前4つの値にAEを掛けた値、(RE+HE+CE+IE)*AEで定義される。

影響範囲の値は、フォロワー数−フォロー数×0.2。インスタグラムではアカウントをフォローすると、無条件にフォローし返す(フォローバック)する人がいる。無差別に様々なアカウントをフォローしてみて、約2割がフォローバックしてきたので、0.2という係数を設けている。発見の値は、インスタグラム内におけるハッシュタグの総投稿数×投稿数の前日比増加率による重み付け。参考の値は、キャプション中のハッシュタグに関連する言葉の数×文字数。ハッシュタグに関連する言葉かどうかは、試行錯誤の結果、グーグル検索でサジェストに出てくるかどうかで決めている。印象の値は、エンカウント率(フォロワーのうち、同じような投稿を他に見た割合の逆数)×加工、構図、対象物、場所を5点満点で評価したクリエイティブ値。最後に承認の値は、(いいねの数+26×コメント数)÷RE。コメントはいいねを押すよりもずっと何か思い入れがないと行われないので、26という係数を掛けている。一般的なコメント数といいね数の比率。さらにコメント数は本人によるコメントを除くし、同じ人からの複数コメントは徐々に低くなる重み付けをしている。

企業がインフルエンサーを選ぶときも、共感指数のどの要素を上げたいのかで、選ぶべき相手は変わる。とにかく広範囲に広めたいなら影響範囲の値が大きいインフルエンサー。詳細な情報を共有してもらいたいなら、参考の値が大きいインフルエンサー。洗練されたイメージを広めたいなら印象の値が大きいインフルエンサー、など(p.171-173)。

結論として、インフルエンサーの特定は、①狙っているセグメントのなかでフォロワー数が多いアカウントを探し、②その人のフォロワーが狙っているセグメントに属しているかを確認し(アカウント自体とそのフォロワーの属するセグメントは異なったりする)、③共感指数の高い投稿をしているかを確認することとなる(p.174-177)。
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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