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吉田就彦、石井晃、新垣久史『大ヒットの方程式』


統計物理学に着想を得て、ブログの書き込み数を説明するモデルを作ったという内容。詳しくは付録にあるが、ブログの書き込み数は減衰率、広告投入額(GRP)、書き込み数の一次の項と二次の項を使って、微分方程式で書かれる。映画にや地方イベントについての書き込み数がこのモデルでよく推定できる。

このモデルのポイントは二次の項。これは著者の解釈によれば、複数の他のブログからの影響関係を表す間接コミュニケーションの項。イベントの情報を直接見たのではなく、他の人がまた他の人について話しているのを見て知った効果を表しており、つまりクチコミ効果を表す。間接コミュニケーションの項が著者たちのヒット現象モデルの特徴をなしている。いわば他のたちの会話が何となく聞こえてきた、のように間接コミュニケーションを表すこれが無いと、マーケティングでクチコミ効果を表現する有名なBassモデルと同じ(p.50-53, 216f)。

あるイベントがこのモデルで近似できれば、そこからこのイベントでは広告投入額、直接コミュニケーション、間接コミュニケーションのいずれかが効いたのかが分かる。著者は映画と地方イベントを例にとって、ブログの書き込み数をこのモデルで近似している。

本書にはモデルによる近似に並んでもう一つ、「話題共鳴分析」と題されるものがある。これは各ブログの書き込みをポジ・ネガに分類したものと、登場する単語で共起ネットワークを作ったもの。ポジ・ネガ分類は人手でやっている。例えば、人手で5万件のブログ記事をポジ・ネガに分類し、賛否の分かれる作品が興行収益が高いという業界仮説を検証するなどしている(p.89-93)。すると、『クローズド・ノート』の試写会での沼尻エリカの不遜な発言は、むしろ謝罪しないほうがポジネガが分かれて興行収益はよかったかもといった話が出る(p.102-105)。

すなわち、数理モデルで広告効果とクチコミ効果を測り、話題共鳴分析(ブログの共起分析)で話題のポイントを探る試み。これは地域のブランディングにも有効としている(p.158-161)。もちろんいまだとブログよりはツイッターだろう。著者もブログではなくツイッターを分析対象とするように進めているようだ(p.196-198, 217-219)。

付録の数学的な解説のところは、天下りだったり端折っているところが多く、これだけでは理解できないだろう。著者がこのモデルの導出を詳しく書いている論文があるので、そちらを読んだほうがよい。

この試みはブログの書き込み数を、ある数式で近似できたというもので、直接コミュニケーションや間接コミュニケーションそのものを観測して変数として回帰しているものではない。ブログには事前の期待も書かれるが、多くは事後の体験談なので、基本は事後的な分析。これを新規イベントについての書き込み数の予測に使うには、そのイベントと類似すると思われるイベントを探し出してそちらでモデルを近似させ、それを使うことになる。このうち、広告投入額は外在変数なので変えることができるが、ある時点までの書き込み数からその後を予測するような試みではない。
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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