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大竹文雄『行動経済学の処方箋』

経済学を用いた社会問題へのアプローチ。筆致は軽く、時にエッセイ風。行動経済学の基本的な考え方をもとに、著者も深くかかわった新型コロナウィルスの様々な対策が中心的に書かれている。後半は短く簡潔な文章も交えながら、外国人労働者、企業のCSR、アダム・スミスの読み方、人文社会系学問の意義、神社仏閣の役割など多岐に及ぶ話題を扱っている。どれも読みやすだけでなく現場で問題解決に尽力してきた実感と、しっかりした...

神取道宏『ミクロ経済学の力』

経済学徒は誰もが読んでいる、ミクロ経済学の入門書。これは確かに素晴らしい、というか凄まじい一冊だ。母国語でこんなレベルの教科書が読める日本の経済学は、この上なく恵まれた状況だろう。読みやすさ、分かりやすさ、内容の網羅性、レベルの高さにおいて、この水準の教科書はほぼ他に見ない。内容は均衡分析とゲーム理論に分かれている。消費と生産の理論から部分均衡、一般均衡という市場で均衡が成立するメカニズム。市場が...

大竹文雄『あなたを変える行動経済学』

読みやすい行動経済学の入門書。もともと、予備校の早稲田塾で高校生相手に行ったオンライン連続講義に基づいている(p.11)。行動経済学で論じられる人間の意思決定におけるいくつかのバイアスを分かりやすく伝えている。バイアスを表す簡単な実験や、有名な実験の紹介、バイアスに対処する方法、バイアスを利用したナッジなど。モデルなどの理論的な考察は一切ない。扱われるのはサンクコスト、参照点効果、現在バイアス、社会的選...

経済セミナー編集部編『ナッジで社会は変わるのか』

『経済セミナー』2020年6・7月号の特集部分だけを抜粋したもの。ナッジについて、対談、概観、環境政策・医療健康分野・職場・マーケティングにおける活用の現状や事例が扱われている。ナッジについては近年、様々な分野の人が様々に語っているが、あくまで経済学に立脚してしっかりな記述が心掛けられている。ナッジは考え出すと、あれもこれもナッジではないかと見えてきてしまう。なので、改めてナッジをしっかり理解し直すいい...

栗山浩一、馬奈木俊介『環境経済学をつかむ〔第4版〕』

大学初学年の環境経済学の教科書。経済学の理論的な初歩から、現実の事例まで様々な観点で環境経済学の広がりを提示している。環境経済学には3つの課題があるとされ、本書はこの線に沿って各章が書かれている(p.2-4)。(1)環境問題が発生する経済メカニズムの解明。負の外部性やフリーライドなど、市場の失敗がどのように発生するかを分析する。(2)環境問題を解決するための具体的な政策手段を明らかにする。環境規制や環境税の効果...

室岡健志『行動経済学』

行動経済学の本格的な入門書。伝統的な経済学からは不合理に見えるような実験結果を提示し、こうした実験結果を説明しうる行動経済学的なモデルを導入する。最新の研究成果への広がりや、著者自身の研究内容、政策への提言なども含み、話題の広がりが見られる。モデリングは初等的な例を扱いながらも、式展開まで丁寧に追っており理解を助ける。本書で言う行動経済学は、行動経済学的なバイアスや選好を組み入れて、伝統的な経済理...

『経済セミナー2023年4・5月』

経済学のビジネス応用についての特集。個人的にも最近追っている話題なので、論点の確認や広がりの情報を得る。需要曲線の推定に基づく価格設定、社会的選択理論のレーティングへ応用、マッチング理論の企業人事への応用といった、経済学のビジネス適用を追っていると出てくるいつもの話題が詳説されている。特集以外では環境経済学の記事がとても面白かった。様々な脱炭素政策の経済費用(その政策による単位当たりCO2排出量削減...

高原勇・粟野盛光『次世代モビリティの経済学』

モビリティ市場を題に取ったミクロ経済学の解説。ユーザに走行時の様々なデータを提供させるための(正および負の)インセンティブをどう与えたらいいかという問題(モニタリング選択問題と呼ばれている)をゲーム理論で考えるものと、シェアリング市場のマッチング理論が扱われている。かなり単純化された設定での基礎的なモデル化が行われている。実践とはかなり距離がありそうと感じる。基礎的なモデルと実践をつなぐ何かの議論...

大垣昌夫、田中沙織『行動経済学』

行動経済学の教科書、というよりは非古典的経済学の教科書といったほうがよさそう。行動経済学を中心としつつ、神経経済学、文化経済学、幸福の経済学、規範経済学といった分野も議論されている。章末には選択式、記述式の問題も用意されており、主に授業で使われるための教科書となっている。また経済実験も多く紹介されている。ただし神経経済学については関連する脳の解剖学的情報が紹介されるのみで、あまりそれ自体の議論はな...

太田泰彦『2030 半導体の地政学』

半導体を巡る地政学的な動きについて、ジャーナリストが書いた一冊。現状をよく俯瞰している。インタビューが難しいようなTSMC幹部などへも挑んでいる。半導体の技術内容にはそこまで踏み込んでいない。半導体の製造だけでなく、設計や設計ソフトウェア、鉱物、材料、触媒などの補助材料、需要家まで目を配っている。全般的に読みやすく手に取りやすい一冊。半導体が地政学の話題になってきたのは、もちろん米中対立が大きい。冒頭...

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プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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