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岩澤誠一郎『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 04 行動経済学』

HBSのようなケースメソッドによる行動経済学。「企業の顧客の行動を理解することを通じ、あなたの組織における意思決定を改善し、そのパフォーマンスを向上させること」(p.35)を学習のゴールとして、いくつかの印象的なケースを取り上げて解説していく。教科書的な網羅性や体系性はなく、行動経済学のいくつかのトピック・概念を解説し、その概念が適用できる分析事例を実際のビジネスの現場から述べる。参加者との対話形式で書か...

『経済セミナー2022年12月・2023年1月 通巻729号』

特集は計算社会科学。日本の計算社会科学を主導する研究者による鼎談や、隣接分野(経済学、政治学、社会心理学)からの眺めが論じられている。計算社会科学はもともとWebデータなどのビッグデータを解析するという手法先行で始まった。そのため、何をどう研究するべきかの理念はまだ明確になっていない、という問題意識に目が留まった。論文の書き方一つでも、計算機科学など数理的な分野の書き方と、それ以外の分野の書き方が混...

梶井厚志、 松井彰彦『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』

ゲーム理論をメインに据えた、新しいスタイルのミクロ経済学の教科書。読みやすい親しみやすい調子で書かれており、よい一冊。 最初にゲーム理論を紹介して、最適戦略やナッシュ均衡、バックワード・インダクションなど基本的な考え方を導入。最後通牒ゲームやシグナリング・ゲームといった代表的なゲームを経て、オークション、公共財(グローブス・クラークメカニズム)へ。そこからは一般的なミクロ経済学の教科書っぽくなる...

日本評論社編『経済セミナー2022年10・11月号』

特集で政治学における定量分析の話が読める。とても面白い。ランダム実験が特に行いにくい政治にかかわる場面において、いかに定量的に評価できる実験を行うのかの工夫が見える。またいかにして自然実験とみなせるものを探すのかのアイデアも面白い。実験設計の工夫は主には三つ。(1)実験群ごとに異なる条件付けを与えたり、質問調査内容を変えることによって因果効果を定量的に測る、サーベイ実験。(2)人は社会的期待迎合バイアス...

工藤律子『ルポ 雇用なしで生きる』

雇用されて給与を得るのとは別の生き方を巡るスペインでの動きについて。続編から先に読んでしまったが、こちらの本のほうが読みやすかった。題名の「雇用なしで生きる vivir sin empleo」はフリオ・ヒスペールというマドリードの銀行員の書いた本から取られている。雇用なしといっても、自営業になるという話ではない。資本主義経済とは別の形の経済、「もう一つの経済」、人々が助け合って生きる社会的連帯経済のことだ。スペイ...

伊藤元重『ビジネス・エコノミクス』

500ページ強もある大判な本。けれども記述は柔らかく、著者自身の体験談も含めて事例が豊富なため、とても読みやすい。自然科学の分野では学問内容を読みやすく書いた一般向け本がよくあるが、それの経済学版といった感じ。ビジネスにおける様々な現象を、経済学の用語を使って説明している。ただし経済学の理論の話はほとんど出てこない。数式も登場しない。なのでやや物足りなさを感じる。 見た目は重厚な本なので、アメリカ...

日本経済研究センター編『使える!経済学』

連続セミナーの記録。8名の経済学者が、経済学の社会実装について語っている。テーマは多岐にわたるので、関心のある者を読めばよいだろう。本書の扱う経済学の社会適用は、次のようなポイントにまとめられている。(1)新しい取引市場の価格決定ルール(ゲーム理論、ミクロ経済学)。(2)DXにおける顧客データの集め方(マーケティング、計量経済学)。(3)不均一なプライシング(ミクロ経済学と計量経済学)。(4)マッチングサービス...

小野善康『資本主義の方程式』

人々の資産選好が強まっている成熟経済では、総需要不足によっていくら物価が下がっても、人々は消費を増やすよりも資産を増やしたいという欲望を持っているため、カネが消費に回らず、不況が長期化する。そのような経済では、カネを増やしても消費にも投資にも回らず、金融資産だけが実体経済と無関係に膨れあがって、過剰流動性や株価の膨張、政府債務の拡大などを生む。そのため、大幅な赤字財政や金融緩和によって、貨幣や国債...

今井誠、坂井豊貴編『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』

近年の経済学の成果をビジネスに活かしていこうと啓発する一冊。近年の経済学では、主にデータに基づく計量的な分析結果が多く生み出されている。こうした成果をビジネスに活かす、エコノミック・コンサルティングという会社があり、この会社のアピールのための一冊でもある。何人かの著者がそれぞれのテーマで書いているので、内容の良さはバラバラ。本書が使えると主張する経済学の武器は、マーケットデザインと需要分析(プライ...

ポール・メイソン『ポストキャピタリズム』

世界的にはベストセラーだそうだが、あまりよくない。資本主義の次を考えようとする本だが、直結しない歴史話が多すぎる。ポスト資本主義の基本的な姿はシンプルだ。だが、ポスト資本主義の内実や現在の資本主義社会からの移行の仕方についてこそ語るべきなのに、膨大な歴史話に埋もれている。歴史話から未来へ向けたポイントが抽出できていればいいのだが、そうしたポイントもあまり明確ではない。文章は全般的にやや論理的つなが...

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プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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