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マーク・クーケルバーク『AIの政治哲学』

私たちが日常生活の中でAIを使って行ったり、互いに行ったりすることも政治的である(そして、これまでの章の平等と権力に関する議論が示すように、私たちがその「私たち」をどう定義するかも政治的である)。AIの政治は、家庭や職場で行うことや、友人といっしょに行うことなど、私たちが技術とともに行うことの奥深くにまで及び、それが生成を形成しているのだ。これがAIの本当の力なのかもしれない。(p.216f)AIを話題に取った政...

ジャン・ガブリエル・ガナシア『虚妄のAI神話』

シンギュラリティ仮説、すなわち人工知能が高度に発展して、人間を超える知能を獲得する段階が到来するという思想を批判する一冊。昨年からのLLMブームのなかで、こうした考えはまた盛り上がりつつある。ChatGPTのヒットを受けてFuture of Life Instituteが出した研究モラトリアム宣言には、イーロン・マスクを始め著名な多くの人が署名している。マスク自身は、2014年のスティーブン・ホーキングの声明文の頃から、人工知能が人間...

藤垣裕子『科学者の社会的責任』

科学者は自らの科学的成果(がもたらす社会的影響)について、どのような責任を負うのか、または負わないのか。この話題に関してまず読むべき本。100ページにも満たないが、基本的な見取り図を与えてくれる。科学者の社会的責任という議論は、なんといっても第二次世界大戦後のアメリカで始まる。大きなきっかけはもちろん、原子爆弾の開発における物理学者の関与だ。科学者の社会的責任に関するアメリカの議論は、3つのフェーズに...

ヤコブ・ホーヴィ『予測する心』

フリストン流の予測誤差最小化理論が、心の哲学などにおける哲学の諸問題にいかに示唆を与えるのかについて書かれた一冊。議論は基本的に専門的。予測誤差最小化理論に対する一般的な理解と、哲学における議論状況は前提とされる。ただし、予測誤差最小化理論の数学的な内容であるとか、哲学における○○説のような細かな区分の理解は前提とされない。本書にはほとんど数式は出てこない(しかしそれが理解を難しくしている側面はある...

富山豊『フッサール 志向性の哲学』

初期フッサールの核をなす志向性理論についての意欲的な一冊。志向性の問題が生まれてくる哲学的動機を扱うことによって、他の入門書とはやや一線を画す。フッサールのテキストにはこのように書いてある、と単純に解説するよりも、どうしてそうした問題が立ち上がってくるのか、一緒に追体験することを目している。すなわち、フッサールの考えの枠組み、ものの見方を明らかにすることで、現象学の用語や一通りの解説を行う入門書と...

ハリー・コリンズ『我々みんなが科学の専門家なのか?』

ほとんどの場合、我々は、活動家というものの扱い方を間違えている。知識をインターネットから得ている活動家は危険であり、一次資料を独学で読んで知識を得ている活動家も危険である。それらの活動家は、「一次資料知」を得た素人なのであるが、彼らは、自分が科学における本物の専門知を獲得したような思い込みをどうしても持ってしまう。しかし、そうした思い込みを持つ持たないに関係なく、彼らは、貢献的専門家の会話コミュニ...

ハリー・コリンズ、ロバート・エヴァンズ『民主主義が科学を必要とする理由』

現代の科学技術論の主要な動機は、科学と政治との間の権力の分割をやめて、科学技術を社会的に責任あるものにすることである。それに対し、我々の関心は、権力の分割を維持して、科学技術が社会から独立に行為できるようにすることである。ほとんどの社会分析家は、民主主義は科学技術の専門家たちから守られるべきだと考えている。我々は、科学技術の専門家たちこそが、民主主義を守れるのだと主張する。(p.14) 印象的な一冊。科...

西郷早矢人、田口茂『<現実>とは何か』

さらに厳密に言うならば、たとえ誰かが行った証明であったとしても、それを理解するというときは常に「他の誰でもないこの私」が行うのであるから、「誰もが」は決して「この「私」によらずには言うことすらできないのである。「だがその「私」は誰でもいいではないか」と言う人がいるかもしれないが、「誰でもよかった」と言えるためには、まず誰かが言わなければならない。それが言われた後で、はじめて「誰でもよかった」という...

イマニュエル・カント『永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編』

カントの歴史哲学、政治哲学周りの小論を集めたもの。「啓蒙とはなにか」「世界市民という視点から見た普遍史の理念」「人類の歴史の憶測的な起源」「万物の終焉」「永遠平和のために」の5編を収録している。昔に一度どれも読んだことがあるはずだが、久々にカントなど読むととても面白い。話題が純粋な哲学よりも分かりやすいから、まだしも取っつきやすい。逆説的な議論の展開など、さすがに深く考えられている。「啓蒙とはなに...

伊勢田哲治『疑似科学と科学の哲学』

ともすると科学的に見えながら科学ではない、疑似科学の対比でもって、科学とは何かを語る異色の一冊。異色ではあるが、あるものが何なのかを考えるには、どういう点で他のものと区別されるのかを考えることになるため、まっとうなアプローチとも言える。なお本書の結論的には、科学と疑似科学の間に明快な分割線は引けない。科学も変化するものであるし、明快な分割線が無いからといって意味のない試みではない。対立するものとし...

Appendix

プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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