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世阿弥『風姿花伝・三道』

言わずとしれた、室町時代において能を大成した世阿弥の能楽論。思ったよりずっと読みやすい。能についての芸術論というより、むしろこれはショービジネスを生き抜くためのノウハウ本に見える。室町時代当時の能はまだ自立した芸術の地位を獲得していない。権力者に気に入られ、庇護を得られなければ存立は難しい。いかに権力者を始めとする観客を引きつけ、評価を勝ち取るかの方法を指南している。観客が誰であり、どのような能を...

ナターリャ・サフキーナ『プロコフィエフ』

この作曲家は有名なのにあまり論じた本が少ない。「ピーターと狼」は別として、他にはあまり一般に親しみやすいものがないからか。この本はロシア人による評伝。プロコフィエフの生涯を時系列でなぞりながら、重要な作品について述べていく。早熟の幼少期、ロシア音楽界の寵児となる青年期、パリでの生活、ロシアへの帰郷。取り上げられる作品は初期はピアノ曲が多いものの、オペラやバレエ音楽が多い。器楽曲が少ないのが意外だっ...

千葉潤『ショスタコーヴィチ』

屈折した作曲家ショスタコーヴィチについて、その生涯と作品を概観した入門書。ショスタコーヴィチの音楽は相当に複雑だが、謎解きのように面白い。ソビエトで国民的な人気を誇ったショスタコーヴィチは、スターリンを始めとする体制との妥協に満ちている。一見して体制に迎合したように見える音楽にも様々な仕掛けや裏切りがある。迎合した作品とは別に手元に留め置かれた私的な作品がある。また、数多くの映画音楽がある。「いつ...

油井正一『ジャズの歴史物語』

古き名著。ジャズの歴史について、ダンスなどエンターテイメントとの関係、人種問題、政治や戦争の問題を絡めながらも、極めて平易に見通しよく書いている。複雑なジャズの歴史を鮮やかに描写。特にアメリカから離れた視点をもち、アメリカ内ではとても書けないであろう、人種問題との絡みなども扱えている。ニューオーリンズで始まったジャズを前期。スイングからビ・バップまでを中期。モード・ジャズからフリーへの移行を後期。...

リチャード・クック『ブルーノート・レコード』

ジャズのレーベル、ブルーノートの歴史。時代や他のレーベル、ジャズ全体の流れなどはあまりなく、ブルーノートの話に専念している。それは、ひとつにはブルーノートの歴史はジャズそのものとは言わないまでも、大部分を占めているから。また原題にあるように、本書はディスコグラフィー。ブルーノートが出した主なレコードを辿りつつ、歴史を語るもの。自分はジャズはよく聴くが系統立って聴いていないし、あまり歴史も知らない。...

足立紀子『ゲルギエフ」

ロシアの現在のクラシック音楽界を牽引する指揮者、ヴァレリー・ゲルギエフについての本。本というよりは、60ページ強のブックレット。ゲルギエフの生まれからの評伝と、本人インタビューから見える音楽観が書かれている。ゲルギエフは生まれはモスクワだが、成長期を北オセチアのウラジカフカスで過ごす。自身のアイデンティティはロシア人ではなく、オセット人。スケールが大きく堂々としたその音楽は、たしかに北オセチアの険し...

井出祐昭『見えないデザイン』

見えないデザイン ~サウンド・スペース・コンポーザーの仕事~空間における音の設計を行う仕事をしている著者が、その来歴を含めて多様な仕事の様子を語ったもの。通常言われる楽曲としての音楽とは違って、環境における音楽がいかにあるか。あまり類を見ない発想が多くて話は面白い。新宿駅の発車チャイムのような話なら、いまは普通の話になっているので取っ付き易い。それでも、駅の騒音のなかできちんと注意喚起をしつつ不快感...

荒井曜『分子の音』

分子の音 身体のなかのシンフォニーとても不思議な本。分子の構造や機能を計算科学的に研究している中村振一郎氏と、音響の専門家の井出祐昭氏による仕事の記録。やっていることは分子運動の動力学的データから個々の分子の違いが明確になるパラメーターを選び、その値を人間の可聴域の周波数に割り振る。すると特定の分子の特徴をよく表す「音楽」が得られることになる。付属のCDにはこの結果に基づき、音楽家が演奏したものが収...

渡辺裕『聴衆の誕生』

聴衆の誕生 - ポスト・モダン時代の音楽文化 (中公文庫)(2012/02/23)渡辺 裕商品詳細を見る18世紀のモーツァルトの時代あたりから、西洋古典音楽がどのように聞かれてきたかを追った一冊。整理し過ぎかなと思える感じもあるが、総じてとても良くまとまっているし、読んでいて面白い。原著は1989年で、当時(というには少し時代が遅いが)のポストモダン的な解釈図式から論じられている。主に18世紀をプレモダン、19世紀をモダン、2...

エミール・ヴュイエルモーズ『ガブリエル・フォーレ』

ガブリエル・フォーレ―人と作品(1981/06)エミール・ヴュイエルモーズ、家里和夫 他商品詳細を見るガブリエル・フォーレ(1845-1924)の人とその音楽作品について、フォーレの弟子であった人物が記した本。師であるフォーレに対する深い愛情が随所に現れている、温かい気持ちのこもった本だ。同時に、フォーレがあまり評価されていない現状に対して残念な思いを随所に記している。例えば次のように。厳格で融通の利かぬ、単に学者ぶっ...

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プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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