オスマン帝国の通史。オスマン帝国については特に大した知識もなかったので、非常に楽しく読んだ。オスマン帝国はその後の国民国家の流れからは、過去の対抗すべき遺産とみなされていたため、歴史研究や通説にもいくつか問題が見られる。そうした旧来の見解を冷静に検討しつつ、国民国家以前の時代に多民族を統治しえたオスマン帝国の姿を描いていく。オスマン帝国のスルタンにも魅力的な人物は多いが、そうしたエピソード的な人物...
地域がグレーゾーンとなっている際に、人々の不安・危惧にしっかりと耳を傾け、そのルーツを緩和する明確な対策を取ることこそ、平和への道であることは強調されなければならない。そして、グレーゾーンが誰もが安心して暮らせる普通の日常生活モードに戻れる地域になれば、これこそ平和的解決の鍵となる。ただ戦争から和平へと向かう可視的なプロセスと異なり、検証しにくく、定義が難しい。しかし、それが平和なのだ。現代アフリ...
欧米と日本における文系(人文社会系)と理系(理工系)という学問の分け方、理系に偏重してきたイノベーション政策、女子は文系というジェンダーイメージ、学際化の傾向について。文系と理系に分ける仕方の歴史、この区別を取り巻く社会的状況、そしてその将来をうかがうにはまず読むべき本だろう。大学の歴史から論は説き起こされる。まず理工系の学部の歴史(p.22-25)。大学に理工系学部が定着するのは19世紀。これは自然科学の...
刀伊の入寇という、1019年3月末から4月にかけてあった外敵の日本への襲来について。高麗での呼び名で刀伊(東夷)と呼ばれる勢力は、主に中国東北地方に存在した女真のうち、東女真とされる勢力。女真はツングース系とされ、半農・半牧を営んでいた(p.24)。この東女真は刀伊の入寇において対馬・壱岐を襲って甚大な被害を及ぼし、次いで博多・能古島から松浦にかけての北九州を襲った。日本は当時、藤原道長の時代。迎え撃つ軍勢に...
当時とても有名になった一冊。日本史を「中国化」とその反動というキャッチーなフレーズで捉え直した。学問的には内藤湖南から宮崎市定、網野善彦といった歴史研究の主流を踏まえている。ただし、教科書的な通説や一般常識に対する揶揄や皮肉と、歴史的な事項を現代の制度や事象につなげる短絡的なフレーズがどうにも理解を阻み、きわめて読みにくい。こういうものは講義などリアルタイムな内輪の会では有効に機能するが、一般的な...
良書。科学技術史とSTSについての事典。一つの事項が見開き2ページで完結するように書かれている。本書は三部に分かれる。第二次世界大戦後からの科学技術における大きな話題を扱った部、科学技術が現在において大きな問題を提示し続けている事項を扱う部、そしてSTSと科学社会学など隣接分野の方法論的概念を扱う部。扱われている範囲はとても広く、基礎的な概念から発展的な内容までを含む。各項目は簡潔にして要を得ており、概...
江戸の人びとはこの「マルチ・バース」そのままの世界に生きていた、と言っていいかもしれない。大多数のひとは、幕藩体制の秩序の下で自分と世間の公式的関係は「それはそれとして」ひとつの秩序体系として認めながらも、趣味などの別の小宇宙でいくつもの顔を使い分けていた。寄席の木戸口をくぐれば気軽に別世界に入れたように、さまざまな隠れ家的場所の存在が、人びとの生活に陰影を与え、複雑な豊かさをつくり出していた。私...
当時の史料はしばしば、ハラーフィーシュや乞食たちが健康な肉体をもち、多くはみずからの意志で乞食になっている点を強調している。このような記述は、イスラームの乞食が、日本やヨーロッパに見られる身分制度にはあてはまらない、より自由な、よりやわらかな存在であることを証明してくれるだろう。乞食になることはだれにでもできるし、乞食の世界からはなれることも、だれにでも可能なのである。(p.170)1994年刊。乞食、物乞...
1996年刊だがいまでも読まれる興味深い一冊。サトウキビと砂糖を中心にして、およそ16世紀から19世紀のイギリスを主に描いている。特定の商品に絞って歴史を叙述するこの試みはとても面白い。通常の政治を中心に世界史を見るのとは違うものが見えてくる。砂糖という題材がポイントだ。砂糖は世界商品と呼ばれる。それはまず、世界中の誰もが欲しがるものだということ。世界の一部でしかニーズが無いような商品ではなく、世界中で必...
他方で、国際連盟が、満州事変、エチオピア戦争、ソ連・フィンランド戦争と大国が行った戦争に対して、「正邪」の判断を下したことは忘れてはならないであろう。 戦争を防ぐことはできなかったが、侵略戦争を認めることなく、加盟国全体が日本を非難し、イタリアに制裁を科し、ソ連を除名したのである。このようにみれば、国際連盟は原則は貫いたがその原則の実行は困難だったと評価することもできる。(p.266)国際連盟の成立から、...