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長沼秀世『ウィルソン』

アメリカ合衆国第28代大統領、ウッドロー・ウィルソン(1856-1924)についての評伝。ウィルソンはもともと政治学者だが、政治家とりわけ大統領時代の施策について記述の焦点がある。特にウィルソンは国際連盟の提唱者として有名。そのため、第一次世界大戦の戦後処理の過程について詳しい。ウィルソンは議会制の研究から出発している。アメリカもイギリス型の議院内閣制を取り、閣僚が議会の討論に参加すべきとの主張が核となる(p.12...

岡本隆司『世界史とつなげて学ぶ 中国全史』

中国の通史。語り下ろしの講義をもとに書かれており、とても読みやすい。力点は近代までにあり、清朝以降の現代中国については弱い。特徴は、中国の動きを世界全体の流れに置くこと。人によっては、外的な要因で中国史が動いているような印象を持つかもしれない。構造的な見方を好む私にはしっくりくる内容だった。黄河文明の誕生から話は始まる。文明の誕生は、農耕民と遊牧民の境界地域で生まれたとされる。農耕民と遊牧民はそれ...

宮本常一『忘れられた日本人』

1939年(昭和14年)から日本各地を回り、主に農村の習俗の聞き取りを行った著者が、西日本を中心にその過程をつづったもの。この当時の高齢者に往年のことを聞いているので、記述されている習俗の時代は明治期前後に当たる。明治以降の急速な近代化によって失われつつあった習俗、それでも続いている習俗について、対話体を交え具体的に記述している。その分、抽象化については物足りなく感じるが、この本の役目ではなかろう。領主...

池上俊一『動物裁判』

動物裁判はおろかであり、また残酷であるかもしれない。しかし、シャサネのような立派な弁護士に代弁してもらえる虫たちは、なんの主張もできずに、人間の都合で一方的に駆除されてしまう今日の虫たちよりも、考えようによってはずっと幸せなのではないかと。そしてそうした配慮を自然に対してすることのできた人間と文化も、ある意味で豊かであったのではないかと。(p.90)1990年刊と古めの本だが、この主題についてはいまでもほぼ...

中川毅『人類と気候の10万年史』

とてもワクワクする一冊。分野としては古気候学に属する。古気候学は堆積物を用いて、過去の気候を推定する学問。この分野では近年、大きなブレイクスルーがあった。そのブレイクスルーに深く関わった著者が、古気候学で分かってきたことを平易に記している。研究内容は堆積物を1mmスライスなどでひたすら観察し、花粉の数を数えるなどきわめて地味だ。しかしそれが示唆する気候の動きはスケールが大きく、圧倒的なものだ。もとも...

林俊雄『スキタイと匈奴 遊牧の文明』

中央アジアで隆盛を誇った遊牧民である、スキタイ(前7~前4世紀頃)と匈奴(前2世紀~1世紀頃)について。この2つの民族・国家らしきものは、文字を持たずに固有の史料がないため、実像を探るのは難しい。スキタイについてはヘロドトス、匈奴については司馬遷を始め漢の史書が記録を残している。本書ではそれらに加えて、考古学的資料を多く用いて実像に迫っている。特にスキタイは考古学資料が中心となる。まだ分かっていないこと...

杉山正明『クビライの挑戦』

これまでのモンゴル帝国のイメージを覆そうとする刺激的な一冊。13~14世紀に渡ってユーラシア大陸のほぼ全域で勢力を誇ったモンゴル帝国は、その後からすると野蛮な侵略者とのイメージがある。日本では元寇の印象が強いだろうが、一般人がもつイメージもおおよそ野蛮のようなものだろう。特に被征服側であった中国のイメージは、南宋が滅ぼされ、その後に明が再征服したこともあって、いっそうそうした侵略者のイメージ。しかしな...

呉座勇一『応仁の乱』

有名な本。細川勝元と山名宗全の対立、あるいは日野富子と足利義政・足利義視という軸で教科書的には語られがちな応仁の乱について新しい視点を開いたベストセラー。応仁の乱をあえて京都の人間の視点ではなく、大和の興福寺に属する高僧、経覚と尋尊という二人の日記を元に記述している。この経覚の日記『経覚私要鈔』は最近刊行されたもの。新資料をメインに使うことにより、荘園領主層の多面的評価を行っている(p.136-138)。ま...

山道佳子、鳥居徳敏、木下亮、八嶋由香利『近代都市バルセロナの形成』

19世紀後半のバルセロナについて、都市計画、商業・経済、建築、絵画芸術の側面からテーマ別に論じたもの。基本的に歴史学のアプローチで書かれている。近代から現在につながるバルセロナの形を作ったのは、何と言っても都市計画家サルダー(セルダ)だろう。ただ彼は同時代には評価されておらず、評価が行われたのは1990年代だというのは意外だった。その生涯について詳しく扱われている(p.27-33)。また、そもそも市壁を壊すこと...

竹中克行、齊藤由香『スペインワイン産業の地域資源論』

とても面白い一冊。スペインのワインに対する原産地呼称(Denominación de Origen)を始めとする地理的呼称制度が、スペインのワイン造りをどう変えたかを扱っている。豊富な統計データや、実際に現地を訪れての多くの調査に基づいている。日本でのワイン紹介本はDOを冠してボトルで売られるワインがほとんど。この本では、それ以外にも原酒だけ生産するもの、バルクで販売するもの、テーブルワイン(呼称がつかないもの)として売ら...

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プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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