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杉谷和哉『政策にエビデンスは必要なのか』

EBPMについて背景、日本の現状をはじめ、行政実務や民主主義との関わり、医療や教育での実践との比較などのトピックについてしっかり書かれた一冊。博士論文が基になっているようだが読みやすく、それなりに売れているようでもある。EBPMというとイギリスの試みがその先駆として紹介されることが多いが、アメリカにも同様にその源を求めるべきだと言うのが著者の見解。しかしアメリカとイギリスでは出自もアプローチも異なる。簡潔...

北村周平『民主主義の経済学』

とても面白い一冊。政治経済学、数理政治学の分野の入門書、教科書。政治家の政策決定行動や有権者の投票行動について、様々なトピックで初等的な経済学のモデルを紹介している。また因果推論を用いた実証研究の結果も併せて紹介し、標準的に分析されるモデルがどこまで現実味があるのかを論じている。内容はしっかりと数式を用いながら、仮定は単純化してあり、式展開を細かく追うなど初学者にやさしく丁寧な記述。この分野の魅力...

吉田徹『くじ引き民主主義』

相手の意見や意思を理解しようと努めると同時に、自らの意見と意思を相手に知ってもらおうと努力し、その過程で相手や自分の意見が変わることを認めるような態度がなければ、国民投票の結果はいわば、多数者の専側に終わってしまう可能性がある。共同体にとって重要な問題であるからこそ、正確な情報をもとに、時間をかけて市民同士が討議する。規模と時間の問題から、国民全員が参加してそれができないのであれば、そのモデルを再...

トマ・ピケティ『来たれ、新たな社会主義』

著者が"le monde"に2016年後半から2021年初頭にわたって掲載した、政治経済評論をまとめたもの。それぞれは翻訳で数ページの簡潔な論考。フランス国内を中心として、アメリカ、ドイツ、イタリア、たまにインド、ブラジル、中国などについて論じている。どれも時宜を捉えたものなので、背景を共有しないものにはその重要性や妥当性はあまりうかがい知れない。著者の主張は2020年9月と日付が打たれた冒頭の論考、「来たれ!社会主義...

城山英明『科学技術と政治』

 科学技術と政治の関わりについて記した学術書。内容は科学技術のいくつかの分野(原子力、宇宙、航空、医療など)における政治との関わりをまとめたものが多い。学術的な議論のための教科書の役割。事項のまとめの趣が大きく、例えば様々な政策の比較考量であったり、そこからの提言といったものはさほど多くない印象。  科学技術政策について、大きく二つの意味がある。第一に、科学技術に関する政策である。ここ...

ニッコロ・マキアヴェッリ『君主論』

君主論 (講談社学術文庫)(2004/12/11)マキアヴェリ商品詳細を見る言わずもがな、マキャヴェリの君主論。様々なリーダーが乱立した16世紀イタリアにおいて、新たに君主となった者がどのようにしたらその権力を維持しうるかを書いたもの。平時におけるリーダーシップというよりは、戦時においてのものを念頭に書かれていると言える。焦点は法維持暴力よりも法措定暴力に当たっている。いわゆるマキャベリズムもその点から評価され...

飯島勲『小泉官邸秘録』

小泉官邸秘録(2006/12)飯島 勲商品詳細を見る総理大臣が「株式会社日本」のCEOにあたるなら、COOは首席総理秘書官だろう。官房長官という役職もあるが、あれはせいぜい広報室長くらいの仕事しかしない。首相のリーダーシップが云々と言われる昨今だが、実はそのビジョンを受けて実務的に折衝を行うこの秘書官というポジションは、かなりの重みを持つ。幾多の批判を受けつつ、今ではすっかりバックラッシュに見舞われている小泉政権...

山内昌之『イスラームとアメリカ』

イスラームとアメリカ (中公文庫)(1998/04)山内 昌之商品詳細を見るイスラムについて書かれた論文を集めたもの。日本にいると現代イスラム政治の展開など全然見えないので、とても貴重な本である。日米欧では「イスラム原理主義」としてひとくくりにされる様々な立場の区別は基本。テロ活動を含め活動の手段を選ばない「ムタタッリフーン」。イスラムの原理へと穏健的な宗教政治活動で回帰しようとする「サラフィーユーン」「ウス...

アンドレア・センプリーニ『多文化主義とは何か』

多文化主義とは何か (文庫クセジュ)(2003/04)アンドレア センプリーニ商品詳細を見る多文化主義Multiculturalismについての解説本。フランスの著者向けに、アメリカの政治状況を解説したものだ。個人的にはちょっと期待はずれだった。基本的にポストモダン思潮のなかで書かれている。ポストモダン的な社会思想(ボードリヤールとか)やカルチュラル・スタディーズ(ホールとか)が好きな人にはいいだろう。基本線は、多文化主義の...

ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』

想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (ネットワークの社会科学シリーズ)(1997/05)ベネディクト アンダーソン商品詳細を見るナショナリズムの起源についての有名な本。まずもって教えられたのは、ナショナリズムが最初に勃興したのが南北アメリカであること。これは本書のポイントの一つ。ナショナリズムが西欧のものだとする西欧中心主義を何度も批判する。また、民衆の間にわき起こってくるナショナリズムに対して、統治機構...

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プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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