サンスティーンの近著。100ページほどと短め。スラッジとは定義が難しいが、手続きや行為を遅らせる障害のことを指す。きわめて煩雑な書類仕事を求められる申請を必要とするものなど、一応形式上は禁止されていないのだが、実際にそれをやろうとすると様々な障害に会い、結果として禁止するに同様な効果を生む。スラッジは人がやりたいことをやる、行きたいところへ行くのを阻む摩擦、あるいは抵抗でできた魔のぬかるみである。地...
コレクティブ・インパクトの現在について。ソーシャルイノベーションが大きく話題になってきたのは、コレクティブ・インパクトという考え方の登場が寄与してる。本号は、当初話題になったコレクティブ・インパクトのその後を振り返り、最近の展開やより強調すべき点を論じる。関連して、コレクティブ・インパクトを目指す各所の活動についていくつもの記事が載っている。現在の視点から振り返ると、コレクティブ・インパクトの取り...
とても興味深い一冊。人々のつながりを作り助け合いを醸成するためには、そもそも人々が集うことのできる場所が必要という主張。社会関係資本が育つかどうかを決めるこうした物理的条件のことを、本書では社会的インフラと呼ぶ。世界各地で社会的インフラを作ろうとしている試みや、適切な社会的インフラで社会課題の明暗が分かれた事例を自然実験として取り上げて論じている。実証的な社会学、社会疫学的な視点が見られるのも好印...
科学技術政策に一般市民を参加させる方法と、それを実践した経験からの生々しい報告。この分野の第一人者的に実践してきた人による記述なので、非常に具体的。どの点で苦労して、どのくらいの期間やリソースがかかったのか詳細に記されている。市民参加型の手法、参加型テクノロジーアセスメントは、市民参加のレベルと、参加結果の政策に対するインパクトから分類されている。市民参加の程度が低い順から、情報提供、意見聴取、参...
科学技術の社会実装において、いかにマイノリティーを排除しない、包摂的な実装を行っていくかについて、海外・日本のいくつかの論考を集めている。どれも方法論や例示に豊富でなかなか興味深く、楽しく読んだ。冒頭には、テック業界の雇用における包摂の試みがある。ソフトウェアエンジニアを始めとするIT業界の雇用は高度技能を求めるために、そのような教育が可能な一部のセクターに偏りがち。マイノリティーを積極的に受け入れ...
視野が驚異的に広い一冊。ルールデザイン、ルールメイキングという論点から、実に多くの学問分野を渉猟して、設定したルールがうまく作動する場合、作動しない場合の原因や事例を扱っている。人がルールに従うときという観点から書かれているので、心理学や行動経済学を中心に、経営学、複雑系、政治学、社会学、機械学習と多くの分野に及ぶ。そして具体的な事例がとても豊富に含まれている。その事例も、細かな数字まできちんと追...
廃棄物処分場などの迷惑施設、NIMBY(Not In My BackYard)施設を巡る環境問題の合意形成のパターンについて書かれた一冊。フィールドワークに基づく具体的な事例を、社会学理論的な考察が支えている。文体はやや硬いし、理論的・抽象的な文言による叙述のところは、門外漢にはなかなか難しいところもある。環境問題の合意形成は、4つのパターンに分けられ、それぞれ実例により分析される(p.25)。(1)合理的手続き主導による公論形成...
公害や廃棄物処理場といった環境問題が、いかに発生していかに解決されるのか、様々な事例から9名の著者が書いている。記述のレベルや着眼点は様々で、副題にあるような解決過程には必ずしもフォーカスしていないと見えるものもある。事例は、足尾鉱毒事件、新潟水俣病、沖縄地域開発、河川行政、長良川河口堰問題、滋賀県の石鹸問題、リサイクルの日米比較、豊島不法投棄問題。第1章はこの分野の主導的な研究者による総説。環境...
スペインで政府に頼らない、市民たちで助け合う経済を模索する人たちについてのレポート。時間銀行、地域通貨といった手段による、社会的連帯経済の試みが取り上げられる。あとから読んだ前著の方が印象に残っており、こちらの本はあまり印象に残っていない。...
コモンウェルスは進化しなければならない--技術的にはもちろん、文化と組織体制も。 協同組合は殊勝なリスク回避体質をどうにか乗り越えて、新しいベンチャーを支援するだけのリスクを取る手段を見つけなければならない。民主主義は昔からリスクだった。 協同組合の後継者たちも、創業者と同じようにリスクを取るチャンスに挑戦してよいはずだ。
未来は不当な巨利を得る人々だけに席が確保された世界である必要はない。人類を月...