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嶋田総太郎『脳のなかの自己と他者』

とても素晴らしい一冊。自己および他者について認知神経科学の知見を分かりやすくまとめている。身体所有感、運動主体感、情動、ミラーシステム、心の理論、共感、物語的自己といった話題が扱われる。どの章も、まずそれぞれのトピックに関する過去の有力な哲学者の理論から始まり、心理実験、そして脳神経的基盤へと話が進んでいる。哲学、心理学、認知神経科学を架橋する力量は素晴らしいものだ。本書は大学での講義を中心として...

乾敏郎、阪口豊 『脳の大統一理論』

いま話題の、フリストンによる自由エネルギー原理を解説したもの。自由エネルギー原理は脳の様々な機能を統一的に説明できる原理とされている。本書では「大統一理論」と謳っているが、おそらくそれは売り文句だろう。自由エネルギー原理はベイズ推論を元にしている。説明のコアのところはベイズ推論を知っていればそこまで難しくはない。だが、実際に理論の細かなところや、実験結果を整合的に解釈していくところはかなり難易度が...

毛内拡『脳を司る脳』

私たちが持つ「こころのはたらき」や「人間らしさ」を考えるにあたって、非シナプス的相互作用--つまりニューロン以外の「脳」の活動が必要不可欠なのかもしれないと、私は本気で思っています。(p.245)文句なく素晴らしい一冊。脳神経科学の研究の現状について、とても分かりやすく示している。現状で分かっていること、分かっていないことの区分も十分示されている。本書の大きな特徴は、ニューロン以外の脳について中心的に語...

マルコム・グラッドウェル『第1感』

原題は"blick"(一瞬)だが、良い邦題をつけたものだ。直感のような瞬時の判断について、その利点と難点を様々な事例から語っている。基本はジャーナリストの記載であって、学問的なものではない。この領域はカーネマンのシステム1/2の区別が有名。この本はシステム1の働きについて、具体的に平明に語ったものと言える。学問的に整理されてはいないので、具体例が続き、分かりにくい印象をもつ。第1感と呼ばれている瞬間的な認知の...

アリソン・ゴプニック『思いどおりになんて育たない』

子どもの世話をすることは、人間の行動の中でも、絶対的な意味で、基本的で奥深い価値を持つ。けれどもそれは木工のような、決まった形の大人をつくるためのものではない。親になることは、庭づくりに似ている。大切なのは豊かで安定している安全な環境を整えて、いくつもの違う花が咲くようにすることだ。子どもたち自身がさまざまな、思いもよらぬ将来を生み出せるような、強くて柔軟な生態系をつくることでもある。それは特定の...

キャロル・ドゥエック『マインドセット』

才能を鼻にかけて、自分を特別な人間だと思い込んでる人がいる。そのようなマインドセットの人は、物事がうまくいかなくなったとたんに、集中力や能力を失い、自分の求めるものを台無しにしてしまう。一方、失敗してもそれを糧にして前向きに進んでいく人もいる。そのようなマインドセットの人は、物事をいちばん良い方向に導いていくことができる。(p.127)成功する人はどのような心持ち(mindset)で物事に臨んでいるのか。心理学や...

海猫沢めろん『明日、機械がヒトになる』

人間と機械の境界を揺るがすような研究をしている先端的な研究者に、小説家がインタビューした記録。代替現実(Substitutional Reality)、3Dプリンタ、アンドロイド’(人型ロボット)、深層学習、社会物理学、BMI、幸福学という6つの話題が扱われる。インタビュー対象は藤井直敬氏、田中浩也氏、石黒浩氏、松尾豊氏、矢野和男氏、西村幸男氏、前野隆司氏でどれも有名な研究者。著者もよく準備しているし、自分の意見を持っているの...

ラメズ・ナム『超人類へ!』

バイオテクノロジーによる様々な人間の能力の拡張について。著者はMicrosoftでInternet Explorerなどの開発に携わった技術者。とはいえバイオテクノロジーの先端の研究をよく調べている。原著は2005年なので、その研究の状況についてはいまではかなり古い。なにせCRISPR-Cas9以前だ。扱われるバイオテクノロジーは、遺伝子操作による筋肉増強、記憶力や感情のコントロールなどの知的増強剤、寿命延長、着床前遺伝子診断、デザイナ...

嶋田総太郎『認知脳科学』

認知神経科学の素晴らしい教科書。大学などで初めて学問的に学ぶ人に最適の一冊。200ページに満たないページ数ながら、主要なトピックを概観している。記述が詰め込みになることもなく、現在分かっていないことへの俯瞰も含めて、入門書となるように構成されている。認知神経科学の4つの方法論の紹介から始まる(p.3-9)。一つには実験認知心理学。健常者を対象に、統制された実験条件で認知プロセスを測定する。二つには認知神経心...

市川忠彦『脳波の旅への誘い 第2版』

脳波計による脳波の計測と、それに拠って見られる様々な脳波の波形について。会話体を取り入れて親しみやすい調子で書かれており、広く読まれているのも頷ける。内容は脳波の計測の原理から始まり、脳波を構成する基本的な周期、睡眠時を例とした正常脳波、年齢による違いを経て、主に癲癇において見られる様々なパターンの異常脳波をメインに扱う。さらに異常と間違えやすいものへの注意を経て、脳波にとってノイズとなるアーティ...

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プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
コンサルティングファームに所属。数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。しかし博士号は取らず進路変更。以降IT業界に住んでいる。

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